平安最強!謎の黒づくめ集団を率いた平致経の要人警護が京都で話題に【前編】:2ページ目
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そんな警護で大丈夫か?
「これなるは大矢左衛門尉(おおや さゑもんのじょう)こと平致経(たいらの むねつね)。弓馬(ゆんば)にかけては当家一番の達者にございますれば、万事ご安心召されよ」
大矢とは文字通り大きな=ロングサイズの矢を軽々と射こなす武勇からつけられた二つ名で、自他ともに認められる腕前を証明しています。
「……さ、左様か。しからば大矢殿、よろしくお頼み申しますぞ」
頼通の太鼓判にも半信半疑、明尊がぎこちなく会釈をすると、致経はわずかに首だけ傾けて武骨に応じました。
しかしその視線は明尊を見据えたまま、実に薄気味悪く、むしろ恐ろしさすら感じます。一方の下人はデンと胸を張ったまま直立不動。
(……本当に、大丈夫なのじゃろうか……)
しかし、何はともあれ先を急がねばならない明尊は自分の馬に跨りますが、つき従う致経らには乗る馬すら見当たりません。
「……その方ら、馬はないのか?三井寺までは遠路ゆえ、徒歩(かち)では参れぬぞ?」
明尊が恐る恐る訊ねると、致経は太い声で、短く
「参れまする」
とだけ答えると、明尊に構わず大股で歩き出し、下人もそれに従います。
「あいや、待たれよ」
警護対象を置いて先に行ってしまうとは、とんだ用心棒もあったものですが、明尊は笑顔で見送る頼通に恨みがましい眼差しでふり返りふり返り、慌てて二人の後についていったのでした。
※参考文献:
菅野覚明『武士道の逆襲』講談社現代新書、2004年10月19日
福永武彦 訳『今昔物語集』ちくま文庫、1991年10月24日
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