たった一人で織田軍を足止めした歴戦の武者・笠井肥後守高利の壮絶な最期【後編】:2ページ目
甲州武者の真骨頂、当たるを幸い大暴れ!
さて、いよいよ高利を取り囲んでの乱戦となりました。
「いざ参れ!……冥途の土産に武田の槍を馳走してやるわい!」
流石は歴戦の甲州武者。勝頼公より拜領せる千手院の槍を巧みに操り舞わして敵の手やら腕やら斬り飛ばし、向こう脛や足腰を打ち払い、まるで羊羹でもつまむように次々と喉笛を貫いていきます。
次第に屍の山がいくつもそびえ、辺りに血の河が流れると、高利は死に狂いの呵呵大笑。
「ほれ如何した滝川左近!早う相手せんと、そなたの兵はみな我が槍の錆となろうぞ!」
予想外の手こずりに苛立つ一益に、一族の猛将・滝川源右衛門助義(たきがわ げんゑもんすけよし)が名乗り出ました。当年三十六歳の男盛りです。
「御屋形様。ここはそれがしにお任せ下され!」
「おぉ、源右衛門ならば心強い。彼奴が首級を上げて参れ!」
「御意!」
鞭声颯爽と駆け出した源右衛門は、騎馬のまま高利に迫り、呼ばわりました。
「……うぬが、先ほどより我らが行く手を妨げる肥後ナニガシか。一息に圧(へ)し折ってくれるわ!」
「吐(ぬ)かしおれ!黙って聞いておれば、何奴(どやつ)も此奴(こやつ)も肥後々々(ひごひご)と、こちとら竹(≒籤―ひご)じゃねぇ……と言いたきところなれど、筋は真っ直ぐ、撓(しな)れど折れぬ強さこそ、甲州武者の真骨頂じゃ!」
とて呵呵大笑。もう何人倒したでしょうか、それでもなお衰えぬ口上に、源右衛門は呆れるやら感心するやら。
「その減らず口もこれまでじゃ!我が名は滝川源右衛門助義、その方(ほう)相手にとって不足なし……いざ!」
「……おう、参れ!」
騎馬のまま猛然と迫る源右衛門の槍先を睨み据え、高利は槍を構えました。