ゲスの極み!鬼畜の所業!平貞盛が自分の孫を殺そうとした理由がエゴすぎる【中編】:2ページ目
どこまでもゲスな貞盛と、左衛門尉の機転
「ふン……もう大丈夫でっしゃろ。ほな、お大事に」
さて、児干のお陰で腫瘍が治った貞盛は、医師へのお礼もそこそこに左衛門尉のところへ行きました。
「……あの医師を殺せ」
妻子の命が助かって安堵していた左衛門尉には青天の霹靂、命の恩人に対して、いったい何ゆえかと貞盛に質したところ、
「あやつはこれより出立するが、あやつが京の都に帰って児干や矢傷の事を言いふらしでもしてみよ。この貞盛の評判は地に堕ちるではないか」
……と、どこまでもエゴ&邪推むき出しの答え。思わずツッコミそうになってしまった左衛門尉は、ぐっと堪えて一計を案じます。
「ははぁ。畏まりました……しからば帰り道、それがしが山中にて射殺します故、お任せ下され」
「うむ、任せたぞ」
「それと父上」
「何じゃ」
「帰りの道中、医師に警護をつけてやりましょう。さすれば、我らは医師の安全を守るべく手を尽くした面目が立ち、疑われる事もないでしょう」
「……それは名案。しからば、我がお気に入りの判官代をつけてやろう。いざとなれば二人で首尾よく仕留めるのじゃ」
「御意」
……貞盛との話がまとまると、左衛門尉は大急ぎで、旅支度をまとめた医師の元へ駆けつけ、事の次第を伝えました。
「我が父ながら、まったく愛想が尽きる……それがしは妻子の命の恩人である先生をお助け致します」
という事で、左衛門尉は医師に対して、帰りの道中は判官代を馬に乗せ、医師自身は歩いて従うように伝えます。
「左衛門はん、おおきに……ほな、お達者で」
「ははあ、先生もお達者で」
……先生を見送った左衛門尉は、急いで先回りして、丹波の山中に隠れました。貞盛から命じられた通り「先生」を射殺すためです。
さて、左衛門尉の作戦は上手くいくのでしょうか?その結末はまた次回に。
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ゲスの極み!鬼畜の所業!平貞盛が自分の孫を殺そうとした理由がエゴすぎる【下編】
※参考文献:
乃至政彦『平将門と天慶の乱』講談社現代新書、平成三十一2019年4月10日
正宗敦夫『日本古典全集 今昔物語集』日本古典全集刊行会、昭和七1932年