森鴎外の名作・山椒太夫、原作は子ども向けの元ネタとは思えないかなりヘビーなものだった
森鴎外の名作・山椒太夫を掘り下げる旅。前回は説経節と山椒太夫の由来について紹介しましたが、今回は物語本編をご紹介していきます。山椒太夫の物語は『安寿と厨子王』の題名で童話になることもありますが、子ども向けの元ネタとは思えないようなヘビーなものだったのです。
神社仏閣のプロモ?森鴎外の名作・山椒太夫を生んだ説経節。そもそも説経節とは何?
弟を逃した安寿姫のその後は?
もう一人の主人公、厨子王丸の姉・安寿姫は、森鴎外の『山椒太夫』では弟を逃亡させる時間を稼ぐため自害する悲劇のヒロインでもありますが、説経節とそこから枝分かれした作品では異なった結末を迎えています。
一番ポピュラーなのは、厨子王に守り本尊の地蔵を託し、彼の逃亡を見届けてから帰った安寿が太夫らに成敗される話です。守りの力を持った宝を手放すというと、草薙剣を奥方に預けたために死を迎えた日本武尊(ヤマトタケル)を思い出しますが、彼女にも同様の運命が待っていたのです。
安寿が意図的に厨子王を逃がしたのを知った太夫とその息子である三郎は彼女を拷問責めにし、ついに死に至らしめてしまいます。
なお、安寿が辿った結末は地域や作者によってさまざま。
- 生き延びて佐渡に渡り、母に会うが信じてもらえず、棒で叩かれて死亡(佐渡)
- 厨子王と二手に分かれて逃げるが、疲労と飢餓が原因で亡くなる(京都府宮津市由良)
- 恋人や忠臣の尽力で存命し、ハッピーエンド(文楽・『由良湊千軒長者』)
儚く散ってしまう鴎外版や、彼女も助かる児童書がお馴染みですが、各地に残る伝承では結末も様々です。その多様性は、如何にこのヒロインが愛されているかを示してもいます。
厨子王は無事に御家再興を果たすが…
さて、逃げた厨子王は国分寺の親切な僧侶の助けもあって都へと落ち延び、梅津の院という貴族に助けてもらいます。朝廷に訴えて父君の無罪を勝ち取り、没収された領土や官位も返還された厨子王は、母君も救い出してめでたく大団円となるのです。
そうした奇跡を呼んだ守り本尊を丹後の国に祀ったのが、金焼地蔵菩薩の始まりとして語られます。
このくだりは、鴎外版で出会う公卿が実在した関白・藤原師実だったり、父である平正氏が亡くなっているなどの差異はありますが、基本的なストーリーの流れは変わりありません。
最大の違いは丹後での厨子王の描写です。