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肩書よりも「あなた」が大切―京都五山の第四位・東福寺にて、和尚と府知事の友情エピソード

肩書よりも「あなた」が大切―京都五山の第四位・東福寺にて、和尚と府知事の友情エピソード

来たのは「大書記官」か「晋太郎」か

さて、北垣は従者に、寺へ自分が来たことを伝えさせました。託(ことづか)った従者は、さっそく門前の小僧に伝えます。

「これ小僧、敬冲和尚に『大書記官がいらした』と伝えよ」

「わかりました」

従者に託った小僧は、本堂に上がって敬冲和尚に伝えます。

「和尚様、門前に『大書記官』様が和尚様を訪ねてお見えです」

それを聞いた敬冲和尚は答えます。

「はて……大書記官?わしにそんなご大層な知り合いはおらんのぅ……うーむ、その御仁には申し訳ないが、あいにく今日は大切な友人と先約があるので、とお断りしなさい」

「わかりました」

小僧は山門へ戻ってその旨を従者に伝え、従者はそれを報告すると、北垣は驚きました。

「そんなバカな。和尚はそのような無体の振舞いをなさる方ではないし、さりとてこちらに不調法があった覚えもないし……いや、待てよ?」

ふと思いついた北垣は馬から下りて、今度は自ら小僧に頼みました。

「のぅ小僧さんや。すまんが敬冲和尚に『晋太郎が来た』とお伝え下され」

「わかりました」

すると今度は敬冲和尚、「待ってました」とばかりの大喜びで、飛び出さんばかりのお出迎え。

「おぉ北垣殿、お待ちしておりましたぞ。聞けば先刻、宮内『大書記官』をご兼任とのこと、誠におめでとうございます。さぁさぁ奥へどうぞ。心ばかりの茶なども進ぜましょうから、積もる話など、たんとお聞かせ下され……」

これを聞いた北垣は内心「(わしが大書記官であると百も承知で)まったく……人を喰った坊主だ」と苦笑しながら、それでも掛け値なしの真心に痛み入り、そのもてなしを心ゆくまで味わったそうです。

めでたし、めでたし。

3ページ目 互いの「本質」と向き合いたいという意思

 

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