妹が包丁でお姉ちゃんを!?柳田國男「遠野物語」に伝わるカッコウとホトトギスの昔ばなし:2ページ目
姉が最期に遺した言葉
「……ガンコ……ガン、コ……ガ、コ……」
妹の足元に崩れ落ち、息絶えようとしている姉が、何度もそう繰り返しつぶやいています。
ガンコ、とは方言で「かたいところ(硬処)」を意味しますが、妹はしばらく意味が分からず、血にぬれた庖丁を持ったまま立ち尽くしていました。
すると不思議なこともあったもので、姉の身体が一羽の小鳥に変わるや否や「ガンコ……ガンコ……」と啼きながら、飛び去ってしまいました。
しかし、姉の化けた鳥が飛び去った後も、ずっと「ガンコ……ガンコ……」という彼女の啼き声が、耳から離れてくれません。
(いったい、何なんだろう)
(ガンコ……硬いところ……ジャガイモ……)
いつまでもいつまでも気になって、妹はずっと考え続けました。
(ジャガイモの硬いところ……まさか!)
妹は足元に転がっている、姉の焼いて持ってきてくれたジャガイモの外側を、拾い上げてかじりました。
ジャガイモの皮はすっかり冷めきっていて、黒く焼け焦げて、硬くなっていました。
遠野では「庖丁かけ」とも呼ぶそうな
お察しの通り、姉が自分にジャガイモの外側をくれなかったのは、硬くてまずかったからです。
そして、自分にいつも食べさせてくれたジャガイモの内側は、いつもホクホクと柔らかく、美味しかった事にようやく気づきました。
「お姉ちゃん!」
今ごろ自分の愚かさを悔やんでも、姉はもう飛び去ってしまいました。
「お姉ちゃんを殺しちゃった……庖丁かけて(で刺して)殺しちゃった……」
ずっとずっと泣いている内に、妹もいつしか鳥の姿に変わってしまい、「庖丁かけちゃった……庖丁かけちゃった……」と啼きながら、どこかへ飛んでいった。
それで遠野では、今もホトトギスを「庖丁かけ」とも呼ぶそうな。
おしまい。
※柳田國男『遠野物語』五三話より。
終わりに
……と、遠野の住人・佐々木鏡石氏の物語るを、柳田國男が書き留めました。
「何も殺さなくても……」とは思いますが、なにぶん浅慮な子供らのこと。
食い物の怨みが大げんかに発展、そんな貧しい時代の話。
次に生まれてくる時は、みんな仲良く、お腹いっぱい食べられる世の中でありますように。
「テッペンカケタカ……たっぶり食べたか……」
「カッコウ……カッコウ……結構……結構……」
山で彼女たちの声を聞くたび、世界中の子供たちが幸せであることを願います。