武士の肝試し:幽霊なんか怖くない?頼光四天王「平季武」の肝試しエピソード(下):2ページ目
消えた赤子と、若武者たちの証言
さて、産女の幽霊から赤子を奪った季武は意気揚々と館へ帰ってきました。
「よぅ、行って来たぞ。お前らは『出来っこない』と言っていたが、俺はちゃんと現地に行って、証拠に幽霊から赤子も奪ってやったぜ!」
原文「其達(そこたち)極(いみじ)ク云ツレドモ、此(かく)ゾ××(欠字)ノ渡ニ行テ、子ヲサヘ取テ来ル」
と、赤子を包んでいた袖を開くと、中には木の葉が入っているだけでした。
季武が驚いていると、先ほどの若武者たちが証言をしてくれたので、賭けはめでたく季武の勝ちに。
しかし、季武は賭けた品物を受け取らず、
「あれは(賭けをしようと)言ってみただけで、あれくれぇの事が出来ねぇ奴なんて居ねぇよ」
原文「然(さ)云フ許(ばかり)也。然許(さばかり)ノ事不為(セ)ヌ者ヤハ有ル」
と、豪傑ぶりを最大限にアピール。
以来、季武はその名を大いに高めたのでした。
エピローグ・産女とは
さて、季武が遭遇した「産女」とは、いったい何者だったのでしょうか。
『今昔物語集』では「狐が人を化かそうとしたもの(原文:狐ノ、人謀ラムトテ為ル)」とか、あるいは「お産が元で亡くなった女性の亡霊(原文:女ノ、子産ムトテ死タルガ、霊ニ成タル)」などと伝えていますが、今回の産女がどちらだったかは、結局判らずじまいです。
しかし、もしも彼女?が狐の化けたものでなく女性の亡霊だったとしたら、憑(と)り殺そうなどの悪意ではなく「ウチの子、抱いてやって下さいませんか?」という思いだったのかも知れません。
この世に生を享けることなく亡くなった赤子に、せめて生きた人間の腕に抱かれる温もりを教えてやりたい。
一緒に死んでしまった自分自身にはかなわない未練を、川を渡る人々に託したかった……そう考えると、少し気の毒にも思いますね。
いつの世も、親子の絆は断ちがたいもの。季武に連れ去られた産女の赤子も、母親と共に成仏されたと信じたいものです。