未来世紀船弁慶。超モダンな京都駅に古典芸能が映える、京都駅ビル薪能
少し前の話になりますが、9月1日に京都駅ビルで「京都駅ビル薪能」なるイベントが行なわれました。4代目である現在の京都駅が開業15周年を迎えたことを記念し、駅ビル真ん中の室町小路広場・大階段の前へ舞台を設置、照明を薪の火に見立てながら観世流能楽師・十世片山九郎右衛門が能を披露するというものです。
京都は、景観保護のため建築規制が強烈に厳しいことで知られています。1997年に建設された現・京都駅もまた、激しい景観論争の末に完成しました。出来上がった駅ビルは、高さが60m。よその都市の駅ビルと比べたら、かなり低めです。しかし水平方向へは極端に肥大し、その幅は実に、470m。異常なまでに横長のフォルムとなりました。
高さ60m×幅470mの建築物など、一歩間違うと巨大な壁でしかありません。圧迫感を回避し、街を南北を分断しないよう、京都駅には様々な工夫が施されました。自由通路、巨大アートのような吹き抜け空間、そして渓谷状の巨大な自由広場×大階段など。大階段は、まるで巨大な観客席のようでもあり、実際ライブやイベントなどもよく行なわれます。で、京都駅ビル薪能も、ここで行なわれたわけです。
1200人の観客の前へ現れた九郎右衛門は、まず京都駅ビル開業15周年を祝すために創られた祝舞『黎明』を披露。続いて、都を追われた源義経一行の乗る船に、壇ノ浦で滅亡した平家の怨霊が襲いかかる『船弁慶』を熱演。特に『船弁慶』では、義経との別れの舞いが見せ場の前シテ・静御前と、海を舞台に暴れ狂う後シテ・平知盛を、凄まじいギャップで演じ分けていました。
「モダン過ぎて京都のイメージに合わない」と一部では評判の悪い京都駅ですが、そんな超モダンな京都駅でみる能は、案外悪いものではありません。というより、舞台の背後に広がる超近代的なビジュアルは、不思議と古典芸能と似合ってる気さえします。
土地柄ならではの問題に拘泥して生まれたが故に、京都駅は意外な形で京都のエッセンスを吸収し、アートへの高いキャパシティを持ったのかも知れません。能が、何処で演じられようとも強烈な幽玄の世界を現出させる力を持ってるだけの話かも知れませんが。
京都駅ビル[Kyoto Station Building] – 公式サイト
京都駅 – Wikipedia
片山九郎右衛門 – Wikipedia