『べらぼう』大河史上に残る“おさらばえ”…もう一度逢いたい瀬川(小芝風花)、涙腺崩壊の名場面10選【後編】:2ページ目
蔦重は苦界でたった一つ出会えた光と本音をぶつけた言葉
13話「お江戸揺るがす座頭金」。
以前、浄瑠璃の元締め当道座である検校に力添えを依頼するため、家に訪れた蔦重は、久しぶりに「瀬以」と名乗るようになった瀬川と再会します。すぐに打ち解けて、吉原にいたときのように会話を楽しむ二人。検校には、距離感のある丁寧な口調で接するのに、蔦重とは遠慮のない江戸っ子な会話で楽しそうでした。
それを耳にした検校の心の中に、暗い嫉妬の炎が芽生えます。まだ瀬川の繕わない“素の声”は聞いたことがなかったのでしょう。
ある日、瀬川を喜ばせるため、小部屋にたくさんの本を用意します。たくさんある本に大喜びする瀬川のはしゃぐ声を聞いて微笑む検校。嬉しかったでしょうね。
けれど「これで退屈しないですむ」という瀬川の声に表情が曇ります。きっと「それでは、私が読みますので一緒に楽しみましょうね」と瀬川に誘って欲しかったはず。
けれども、「退屈」という表現、一緒に楽しもうという発想を持ってくれなかったことなどに、怒りと悲しみで我を失ってしまったのです。
「そなたは吉原へ戻りたいのか…所詮わしは客ということか?どこまでいこうと女郎と客。お前は骨の髄まで女郎だな」と瀬川を罵る検校。
「部下にはドスの聞いた声で指図する検校の本性が出た!」という声もありましたが、私はずっと孤独を抱えて生きてきた検校の深い悲しみが伝わってきて切ない場面だと思いました。
瀬川もその検校の本心が伝わったはず。本気でぶつかります。
「蔦重は苦界でたった一つ出会えた光。あの男がいるから、吉原に売られたことも悪いことばかりではない、一つだけはとてもいいことがあった、そう思わせてくれた男だった」と。
「けれども、この世で誰よりも大切にしてくれるあなたを傷つけるこの思いを消してしまいたい。信じられぬと言うなら、ほんにわっちの心の臓をとっていきなんし。」と、今までは使っていなかった花魁言葉で泣きながら話しました。検校の目に浮かぶ涙。
検校にとっても瀬川は暗闇の中で生きてきた彼にとって、唯一の光。お互いに取り繕って“いい顔”しか見せなかった二人が初めて、本気で本音をぶつけ合った場面でした。
蔦重は苦界でたった一つ出会えた光と本音をぶつけた言葉
14話「蔦重瀬川夫婦道中」。
悪事が発覚して幕府に逮捕された鳥山検校。瀬川も逮捕されましたが、松葉屋預かりとなって仮釈放になりました。
蔦重は「店を一緒にやろう」と瀬川に求婚。ようやく二人の夢、いや視聴者の夢が叶うか!という回でした。
瀬川の本音を知り彼女のために離縁を言い渡す検校。本気で愛していたのでしょう。離縁状を手にした瀬川は蔦屋を訪れ離縁したことを伝えます。
喜びのあまり、夢じゃないのかと自分で自分をビンタする蔦重。周囲の目をはばかることなく瀬川を抱きしまめした。
初めての夜を迎えた二人は、本好きらしく寝そべりながら「本の話」で盛り上がります。「わっちは検校を悪くは書けない。そりゃあ、大切にされていたから」といいます。「めぐる因果は恨みじゃなくて恩がいいよ。恩が恩を生んでゆく、そんなめでたい話がいい」と。
このときに瀬川が語った“夢”は、ずっとこの後、蔦重の心に刻まれ続けたのでした。


