『べらぼう』恋心を秘めた歌麿と決別、初めての子との別れ…どん底に落とされた蔦重の悲劇【後編】:4ページ目
蔦重に訪れた歌麿との決別と初めての子との別れ
蔦重は、「申し訳ないことに、知らぬ間に、不快な思いをさせた。いつの間にか籠の鳥を扱うにしていた。自分に長年付き合ってくれてありがたい。極上の夢を見せてくれてありがとう」というような内容の手紙を渡します。
歌麿の秘めた“恋心”には気が付かなかったけれども、兄としてプロデューサーとしては悪止めせずに、さっと身を引いて歌麿のこれからの活躍と幸せを願う内容でした。
これには、ネットでも批判する声が多かったよう。というのも、歌麿にとっては「こんなにあっさりと俺を諦められる程度の付き合いだったんだな」と思うに違いない文面だったからです。
けれど、筆者としては批判に対して「蔦重に分かれってほうが無理。ずっと弟だった存在なんだから。すぐに内省して相手の成功を願うしかない」という意見のほうに同感です。
前項でも書きましたが、視聴者は俯瞰して同時に歌麿と蔦重を見ていられた立場だから、歌麿の気持ちに寄り添いたくなるもの。けれど、蔦重にしてみれば、今まで徹底して弟、いい相棒としか見てなかった相手に、急に「恋心を抱いてるのかも?!」と気づくほうが難しい。
昔、瀬川が急に置き手紙をして去ったときもそうですが、蔦重は去っていく人間関係に対してどこか早く諦めるところがあります。子供時代に突然親捨てられたという思い、吉原でさんざん見てきた男女の別れ、女郎の死etc……人との関係に執着し過ぎると突然訪れる「別れに苦しむ」ことに対する、自己防衛なのでしょうか。
てい(橋本愛)の「旦那様に子を育てる喜びを差し上げたい」という言葉を聞くと、彼女はそんな蔦重に“執着するほど人を愛する”という気持ちを持たせたいと思っていたのではないかと感じました。
店に戻った蔦重は、歌麿に「蔦屋ではもう描かない」といわれたことを告げ、もらった大首絵をていやみの吉(中川 翼)、滝沢瑣吉(曲亭馬琴/津田健次郎)に見せます。
「これは何を描いたので?」という質問に「“恋を描いた”って言ってたなあ」と呟く蔦重。ていは、以前から感じていた歌麿の恋心を、絵を見て確信したよう。「お主は男色か」といったデリカシーのない瑣吉も、絵を観て秘めたる恋心を察したことでしょう。
その直後にていが急に早産になり、子を諦めざる終えない切迫した状況で幕切れとなりました。
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失意の底に落とされた松平定信と蔦重。そんな定信の前に、江戸城を去った高岳(冨永愛)が亡くなった将軍・家基の死の原因となった手袋を持って現れます。
そして、蔦重の前には巨大なタコを背負った十返舎一九が。(テロップでは「旅がらす」となっていましたが)。いずれも、二人にとって光明となるのでしょうか。
さらに、ていは無事だったのか、ちらっと街中に見えた平賀源内らしき人物は誰なのか、絵らしきものを引きちぎって怒っているようにみえた歌麿に何が起きたのか、次回はまた一波乱起きそうな気配を漂わせて終わりました。
残り少なくなって最終回が近づきつつある「べらぼう」。最後までじっくりと観たいと思います。

