幕末の日本が”植民地化”されなかった本当の理由──列強にとっての日本の意外な存在価値とは?:3ページ目
日本は良い商売相手
結論を言えば、欧米諸国は日本を「植民地」ではなく「市場」化しようとしていたのです。
江戸時代の日本はとても高いポテンシャルを持っていました。鎖国のおかげで自国の産業が発達し、人々の生活水準は高く、購買力もあったのです。
そんな日本を原料供給地としての植民地にするという選択肢はありませんでした。
しかも面白いのが、そのわりにアメリカは貿易赤字になってしまったという点です。
もともとアメリカは日本との通商で利益をあげようと輸出品の増加を期待していましたが、生糸や茶など日本の良質な製品の買い入れが多く、なんと貿易赤字になります。
また、本格的な交易活動の前に南北戦争となってしまい、最大貿易相手国になるタイミングを逃します。
最大貿易相手国となったのは、やはりイギリスでした。明確な統計が資料として残っているのは横浜での対イギリス貿易の記録だけです。
それによると、日本からは生糸・茶・蚕卵紙・海産物などの農水産物とその加工品が多く輸出され、イギリスからは毛織物・綿織物などの繊維製品や鉄砲、艦船などの軍需品が輸入されました。
イギリスとの貿易では日本は大幅な輸出超過で、国内の品不足から物価高となりました。
イギリスとしては、こんな良い商売相手を軍事力で破壊したりはしませんし、植民地にしようとする相手に武器を売るはずもありません。
こうして見ていくと、日本は欧米諸国にとってとても良い商売相手だったのであり、幕末の志士たちが「このままでは植民地にされてしまう」と息巻くような描写は勘違いだったと言えるでしょう。
参考資料:浮世博史『くつがえされた幕末維新史』2024年、さくら舎
画像:photoAC,Wikipedia
