【べらぼう】恋川春町の破滅のきっかけ『鸚鵡返文武二道』は実際どんな物語なのか?蔦重の運命も暗転:2ページ目
トンチキな武芸の稽古
さっそく三人は武芸の指導を行いました。
剣術指導の義経は、片方に天狗の面と羽根をつけさせ、横から大団扇で仰いで宙を舞わせます。もう片方が両手にそれぞれ刀と扇を持ちながら斬り合う様子は、さながら大道芸でした。
どちらも慣れない高下駄を履いて立ち回る足取りはおぼつかず、とても剣術どころではありません。
弓術指南の為朝は、その指導方法がなかなかワイルド。『和漢三才図絵』に登場する穿匈(せんきょう)人を連れて来ます。
穿匈人は胴体に穴があいているので、そこを射抜けば怪我をしません。と言うのは簡単ですが……。
馬術指導の兼氏は、初心者には木馬よりも人を馬に見立てて乗らせました。その背中には鞍を乗せ、口には轡(くつわ)をかけて手綱を引きます。
「先生の教え方は凄いが、賄賂を届けに行く駕籠の乗り方ならば、私の方が得意かも知れん」
とまぁこんな具合に、あちこちで稽古が繰り広げられました。
トンチキ武芸者たちが大暴れ!
しばらくすると、それぞれ学んだ武芸を試したくなるのが人の世の常。
弓術組は何でも射抜いてやろうと、古道具屋の兜や瀬戸物屋の兜鉢(どんぶり)など、いきなり射ては壊して回りました。
「おやめください、売り物を壊されては商売あがったりです」
「つべこべ言うなら、お前の頭を射抜いてやろうか」
いっぽう剣術組は義経の千人斬り伝説にあやかろうと、毎晩辻斬りに繰り出します。片手に扇、もう片手には木刀や竹刀を持って、道行く人を滅多打ちに。
「我こそは義経の門人、免許皆伝であるぞ」
「転んだ尻をぶっ叩き、これで九百九十九人目。あと一人で千人斬り達成だ」
そして馬術組は、小栗判官が暴れ馬を乗りこなした伝承を、陰馬つまり陰間(男娼)に乗ったと勘違い。さっそく遊郭や陰間茶屋へ繰り出します。
「まったく、酔狂なお客もあったものだ……」
お金がなくなったら今度は道行く女性や子供に乗りかかろうとする始末。当然あちこちでトラブルになりました。

