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任務遂行は忠実に。部下の命令違反に今川義元(演:野村萬斎)は…『名将言行録』より【どうする家康】

任務遂行は忠実に。部下の命令違反に今川義元(演:野村萬斎)は…『名将言行録』より【どうする家康】

褒められると思ったのに……

ある合戦に際して、義元はある家臣・何某(なにがし)に偵察を命じました。ところが。

「……遅い!」

帰参した何某は敵の首級を持参しており「逃げきれなかったので一戦交えて参りました」とのこと。

報告は遅れてしまったけど、敵を討ち取ったのだから手柄でしょ?と言わんばかりな何某を、義元は叱りつけます。

「わしがそなたに命じたのは、敵情の偵察であって交戦ではない。もし本当にやむなく闘ったのであれば、首級を持ち帰る余裕などないはず。それをこれ見よがしに持ち帰ったということは、わしが命じた任務より、己の武功を重んじた何よりの証拠。そのような不忠者は、我が家中に必要ない!」

とのことで、褒められると思っていたのに打首を命じられてしまった何某。このまま首を刎ねられてしまうのかと思えば、残念でなりません。

何とかお咎めを逃れようと、何某は必死に知恵を絞りました。

刈萱(かるかや)に、身にしむ色は、なけれども、見て捨て難き、露の下た折れ(したおれ)

これは平安歌人・藤原家隆(ふじわらの いえたか)の詠んだ和歌。特に映える色でもない枯れ草だけど、露のしたたる様子は、何とも見捨てがたい趣き深さがある……そんな意味です。

特に面白みもない私ですが、敵の首級をぶら下げた姿に、何か感じませんか?そんなメッセージが込められていたのでしょうか。

これを聞いた義元、「不届きながら、家隆の和歌に免じて赦してやろう」と呵呵大笑。何某の首はめでたくつながったのでした。

終わりに

……或役に義元、何某に命じ斥候に遣はせし所、先陣既に戦ひ始まりし所なれば、逃れ難く鎗を交へ、首一級を獲て歸れり。義元怒り、敵勢を窺ひ、速に歸るべしと命ぜしに、己が功を貪り忠義の心なし、軍法に行うべしとありければ、彼士萎れたる體にて、傍の人に低聲にて家隆の歌に、『刈萱に、身にしむ色は、なけれども、見て捨て難き、露の下た折れ』と唱へしかば、義元益々怒り、何を言ふとありしに、侍臣其由を告ぐ、義元暫く沈吟して、忽ち怒色霽れ、届かざることなれども、急猝の間に家隆の歌を思ひ出せしこと名誉なりと言て、其罪を赦しけり。

※『名将言行録』○今川義元

以上、今川義元と何某のエピソードを紹介しました。偵察を命じたのだから、偵察の任務に専念すべきであり、自身の武功を追い求めるなど言語道断。そんな義元の思想が垣間見えます。

(それでも功名を求めずにはいられないのが武士という生き物です)

NHK大河ドラマ「どうする家康」では割愛でしょうが、家臣を手足のごとく使いこなした義元の名将ぶり、野村萬斎の好演に期待ですね。

※参考文献:

  • 岡谷繁実『名将言行録1』岩波文庫、1943年9月
 

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