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これぞ不法の法…武士道バイブル『葉隠』が伝える戦国大名・武田信玄のエピソード

これぞ不法の法…武士道バイブル『葉隠』が伝える戦国大名・武田信玄のエピソード

その報告を受けた信玄は、送別会を開いた者たちを召し出します。

「わしが曲事と禁じたにもかかわらず、なお傍輩との別れを惜しむ態度に感激した」

として、信玄は褒美として彼らに一倍の加増(所領を100%増やす=2倍にすること)を申しつけました。

「ははあ……ありがたき仕合わせにございまする」

しかし、言いつけを破ったにもかかわらず褒美にあずかる……この不可解な処遇を不気味に思ったのか、以来追放者に対する送別会はピタリと止んだということです。

終わりに

一二四 信玄家中にて、誓言には、「山を越え申すべし。」と申し候由。これは追放の時、領境の山を越え申す故にて候。然るに、追放の者へ暇迄として因みの者、彼の山にて名残を惜しみ、酒宴など仕り候。「この事宜しからず候間、停止すべし。もし相背き候者は、曲事たるべし。」と申し渡され候へども、相止まず候。この事披露候へば、信玄申し渡され候は、「曲事を顧みず、傍輩の別れをしたふ志、感じ入りたり。」とて一倍の加増あり。この以後、酒宴相止み候由。これを不法の法と云ふ。

※『葉隠』第十巻より

……『葉隠』ではこれを「不法の法」と呼び、道理を越えた不可解さで人間の本能に働きかけ、みごと酒宴を止めさせたのでした。

このエピソードの真偽はともかく、もし曲事をもって所領を倍増された者がいたとしたら、さぞかし居心地が悪かったことでしょう。

「あやつは、御屋形様の意に背いてご加増に与かった(≒ずるい)……」

その効果は受けた者の図太さによるものの、もしかしたら、信玄による遠回しな嫌がらせor忖度の示唆だったのかも知れませんね。

※参考文献:

  • 古川哲史ら校訂『葉隠 下』岩波文庫、1941年9月
 

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