男心をまんまと手玉に…平安文学『伊勢物語』が描く、やんごとなき男女の恋愛ゲーム:2ページ目
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二人して むすびし紐を ひとりして あひ見るまでは 解かじとぞ思ふ
【意訳】あなたと二人で結んだこの下着の紐を、一人でほどくようなことはしませんよ……。
パッと見ると「おっ!」と期待してしまいそうな歌ですが、よく見ると「あひ見るまでは」の主語が、必ずしもその男性とは限りません。
「私が『一人で下紐をほどく』なんて、そんな状況があるはずないでしょう?」
言い換えれば「別にあなたじゃなくても、一緒に下紐をほどいたり結んだりする相手なんて、他にいくらでもいるんですよ?」というメッセージにも解釈できます。
何なら自分の手を煩わせることなく「結びなさい(着せなさい)」「ほどきなさい(脱がせなさい)」と命じてさえいるのかも知れません。
思わず生唾を呑み込んでしまう……何だか、すごい世界っぽいですね。
終わりに
三十七
昔、をとこ、色好みなりける女に逢へりけり。うしろめたく思ひけむ、
我ならで下紐とくなあさがほの夕影またぬ花にはありとも
返し、
二人してむすびし紐をひとりしてあひ見るまでは解かじとぞ思ふ※『伊勢物語』より
たったこれだけの短い文章に、女性の心変わりを恐れて必死な男性と、それを手玉に取っている女性の駆け引きが目に浮かぶようです。
『伊勢物語』にはこうした短くも刺激的なエピソードが散りばめられているので、もしよかったら読んでみて、お気に入りのエピソードを探してみると楽しいですよ!
※参考文献:
- 大津有一 校注『伊勢物語』岩波文庫、2014年5月
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