大人になれば、誰でも一度は「もっと勉強しておけばよかった」などと言った(思った)ことがあるかと思いますが、皆さんはどうでしょうか。
とかく世の中を渡っていく上で学問(知識・スキル等の人的資本)にまさる財産はなく、すべての基本となることから、勉強はすればするほどよいものとされています。
しかし「過ぎたるは猶及ばざるが如し」とは昔の人もよく言ったもので、勉強し過ぎることの弊害を説く声もあるようです。
そんな一人が軍記物語『甲陽軍鑑(こうようぐんかん)』の著者とされる高坂弾正昌信(こうさか だんじょうまさのぶ。春日虎綱)。
戦国時代、武田家に仕えて活躍し、後世「武田二十四将」「甲陽五名臣」などと謳われた彼は、勉強についてどのようにとらえていたのでしょうか。
テキストは1冊読めば十分!?
一、侍衆大小ともに学問よくして物知り給はんこと肝要なり。但し、なに本にても一冊、多くして二冊・三冊よみて、その理によくよく徹してあらば、必ず多くは学問無用になさるべし。ことに詩・聯句などまであそばすは、なほもつてひがごとなり。但し、国を半国とも持ち給ふ大将は、学問きはめ、詩・聯句などあそばせば、文武二道と申して現世・未来までひとの誉句になり給ふなり。されどまた国持つ大将も、物の本部数をよく談義なさるゝほどにて、それより武辺場数少なければ、国持ちをも少しぬるきやうに大略は沙汰するものなり。そこのほどをよく分別なさるべき事。
※『甲陽軍鑑』口書より
【意訳】武士が奉公する上で、よく勉強して知識を身に着けることは大切である。が、どのジャンルにおいても書籍(テキスト)は1冊、多くても2、3冊も読み込めば十分な知識が得られる。それ以上読み込んでも学習効果が薄く、特に漢詩や和歌などは趣味に過ぎない。
もっとも、国の半分も支配するような大将であれば、豊かな学識をもって文武両道と賞賛されることもあろうが、立てた武功よりも読破した本数の方が多いようだと、文弱の批判は免れまいことを、よく心得ておくことだ……。
まぁ、仕事の上で必要な物事を知っていた方がいいのは当然としても、読書は知りたいテーマについて1冊、多くて2~3冊も読めばお腹いっぱい。
それ以上読み漁ったところで、だいたいどれも似たようなことが書いてあるし、まして漢詩や和歌なんて学ぶのは趣味の世界、奉公の役には立たないと切り捨てています。