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パッと見こそ地味だけど…海苔と蕎麦の絶妙な香りを楽しむなら「花巻蕎麦」がおすすめ!

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あゝ、もうおしまいですよ……

「汁物では『天ぷらそば』。千人好きのものだがあまりいいもんじゃありません。どっちかといえば素人だましの代物、通人は“花巻”。いいそばで、いいしたぢで、それにいいのりをぱらりっとかける。香気もいいし味もいい。これはこののりが千金の値打なのに“なぜ薬味をつけねェ”と文句をいふ人がある。しようがないがお客だから出す。ねぎをのりの上へぱらぱらとやる。あゝ、もうおしまいですよ」

※『麺類杜氏必携』より

海苔の香りが楽しみたいから花巻蕎麦を頼んだのかと思えば、物を知らない野暮なお客が「珍しいから」何となく注文し、「せっかくカネを払った元をとろう」とばかり薬味のネギを寄越せとゴネ騒ぐ。

それで食う蕎麦が特段美味かろうはずもないから、お客は「ただ海苔を乗せただけでぶったくりやがって」と不満を洩らし帰っていく……「カネを払っているンだから、どう食おうが客の勝手だ」という言い分も、まぁ解らんではありません。

しかしせっかくだったらより美味しくメシャがっていただいて、払った金額相応以上にご満足いただきたい(そして出来ればリピーターになっていただきたい)と思うのが、作り手の思いと言うもの。

ただ、最近ではそういうトラブルを防ぐためか、最初から花巻蕎麦にネギの薬味を添えている蕎麦屋さんもありました(入れるか入れないかはあなた次第ですが、出来れば海苔の香りを十分楽しんだ後に入れたがいいでしょう)。

終わりに

古くから江戸三白(えどさんぱく。三つの白い食材。白米、豆腐、大根)が好まれたように、シンプルな味の中に奥深い楽しみを求めたのが江戸の流儀。カネにモノを言わせてゴテゴテと上乗せして、元をとろうなんて野暮を言っていたら楽しめません。

もしお蕎麦屋さんで花巻蕎麦を注文することがあったら、この話を頭の片隅に思い出していただけると、より楽しめるかと思います。

※参考文献:

  • 藤村和夫『江戸蕎麦通への道』NHK生活新書、2009年6月
  • 藤村和夫『麺類杜氏必携 そばしょくにんのこころえ』ハート出版、2012年3月
 

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