どんな場所でも油断禁物!武士道バイブル『葉隠』が伝える旅先の心得を紹介:2ページ目
なぜトイレをチェックするのかと言うと、現代で言うパニックルーム(緊急避難室)としてよりも、汲み取り口(※)から脱出するためと考えられます。
(※)昔は水洗トイレが普及しておらず、屋内で用を足した汚物を、屋外から汲み出して肥料などに活用する汲み取り式トイレが主流でした。
「こんな汚いところ、入り&通りたくないよ!」と思いますが、火事の延焼や賊徒の襲来に退路を塞がれてしまった場合、そんな悠長なことも言っていられません。
もちろん、脱出先の状況によっては肥溜めの中で「待機」を余儀なくされるかも知れませんが、命さえ無事であれば、身体や着物なんてまたいくらでも洗えるのですから、ここは我慢して下さい。
ちなみに、戦国武将の山中鹿之介(やまなか しかのすけ。幸盛)はこの手を使って監禁先からの脱出に成功しており、志のためであれば、一時の汚れを我慢するのも武士の覚悟と言うものです。
また、掛け軸の後ろに隠しておいた抜け穴を出入りするなんて、時代劇でしか見たことがありませんが、それで難を逃れられることもあれば、既にバレていて、逆にそこから攻め込んで来ることもあったのでしょう。
他にも主君や我が身に危害を及ぼしそうな仕掛けがされていないか、よほど目を光らせていたことが察せられますね。
終わりに
しかし、だからと言って露骨に家捜しをしたような痕跡を残してしまうと、せっかく宿を提供してくれた方に「何だ、我らを疑っているのか」などと不快な思いをさせてしまい、次から宿を貸してもらえないかも知れません。
昔から「立つ鳥、跡を濁さず」と言うように、表向きは宿を貸して下さった方に気持ちよく感謝を示しつつ、主君や自分たちの身を守るべく細心の注意を払う、そういうスマートさが求められたことでしょう。
道中の危険はもちろんのこと、宿泊先に着いても気が抜けないとは、武士たちの旅行は実に大変だったようです。
それに比べると、現代日本はとても平和であることを実感できますが、「旅の恥は搔き捨て」とばかりに隙だらけだと、思わぬトラブルの原因となってしまうこともあるので、いつも通りの品格を忘れずに楽しんで頂ければと思います。
※参考文献:
古川哲史ら校訂『葉隠 下』岩波文庫、2011年6月