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古代の航海は命がけ!「魏志倭人伝」に見る安全祈願の奇習「持衰(じさい)」を紹介

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命がけの安全祈願、その内容は?

では、その「持衰」とは具体的に何をするのか、まずは「魏志倭人伝」の原文を見てみましょう。

【読み下し】
その行来・渡海、中国に詣(参)るには、恆(つね)に一人をして頭を梳(くしけず)らず、蟣蝨(きしつ。シラミ)を去らず、衣服垢汚、肉を食わず、婦人を近づけず、喪人のごとくせしむ。これを名づけて持衰(じさい)となす。もし行く者吉善なれば、共にその生口、財物を顧し、もし疾病あり、暴害に遭えば、便(すなわ)ちこれを殺さんと欲す。その持衰謹まずといえばなり。

※一部、文意を変えない範囲で読みやすく直しています(例:其の⇒その、如く⇒ごとく、之⇒これ、等)。

【意訳】
倭国の者たちが海を渡って中国(魏王朝)へあいさつに行く時、一人を選んで航海中は以下のようにさせる。
一、頭髪を整えず、シラミが湧いても放置。
一、衣服は洗わず着替えず、汚れたままとする。
一、肉類を食わない。
一、女性を近づけない。
まるで喪に服しているようだが、これを持衰(じさい)と名づけている。
もし航海が無事に終われば、奴隷(あるいは罪人)であれば解放し、財物など褒美を与えるが、もし疫病が蔓延するなど航海に不都合(暴害)があった場合、持衰の謹慎が不十分であった責任をとらせてこれを殺す。

要するに航海安全の願をかけた精進潔斎(しょうじんけっさい)といったところで、上手く行けば褒美を与え、失敗すれば(神様への生贄or八つ当たりに)殺すという神頼みだったようです。

もちろん、こんな運任せな役目を志願する者はいなかったでしょうから、きっと(殺しても惜しくない)奴隷や罪人などを連れてきて任に当たらせたものと考えられます。

終わりに

「おい……お前、あの船に乗るか?」
「……どこへ行くんだ?」
「大陸へ渡るのさ。往復の航海が上手くいけばお前は釈放、当分暮らせるだけのカネもやろう」
「……そんな旨い話、ノーリスクな訳はないよな?」
「いかにも……もし航海中、何かトラブルがあったらお前を殺す。どうだ、受けるか?」
「うーむ……」
「お前は終身刑だったな?牢獄の中で一生を終えるか、あるいは命を賭けて解放の可能性を追求するか……ま、明日までじっくり考えな」

助かるか、殺されるかはまったくの運次第……後世の遣隋使・遣唐使にも、似たような役目の者を船に乗せていたそうです。

かつて荒波を乗り越え、大陸王朝と交流した先人たちの陰で、こうしたドラマが繰り広げられていたのかも知れませんね。

※参考文献:
石原道博ら編訳『魏志倭人伝・後漢書倭伝 宋書倭国伝・隋書倭国伝』岩波文庫、1966年7月

 

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