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過信は禁物!福島県に伝わる世にも恐ろしい昔話「三本枝のかみそり狐」【上】

過信は禁物!福島県に伝わる世にも恐ろしい昔話「三本枝のかみそり狐」【上】

着物の裾から、尻尾が見えた!

すっかり暗くなった竹やぶの中を、女はどんどん歩いていきます。後からつけてくる彦兵衛には気づいていないようです。

(もう随分と歩いたが、この先に何があるんだ?)

やがて竹やぶの向こうに灯りが見えてきました。どうやら彼女の家らしく、戸を叩いて呼びかけます。

「おっ母ぁ、おらだ。開けてくんろ」

こんなところに家などあったろうか……彦兵衛が訝しんでいると、女の着物から、何かがチラチラしているのが見えました。

(……尻尾だ!)

狐が化けて女になりすまし、老婆(母親)を騙そうとしているに違いない……そう確信した彦兵衛は、女が入ったあばら家へ押し込みます。

狐を懲らしめたい一心だったのでしょうが、この時点で彦兵衛の方がよほど犯罪的ではないでしょうか。

奪った赤子を、彦兵衛は……

「誰じゃ、あんた!」

老婆と女がごく当然の反応を示すと、彦兵衛は得意満面で言いました。

「婆さん、気をつけろ。そいつはあんたの娘ではねぇ。そいつの着物から尻尾がのぞいていたのを、俺は見たんだ!」

いきなり何を言い出すかと思えば……老婆はてんから信じていない様子で、娘のしょっていた赤子を下ろし、自分で抱きかかえます。

「何を言うだか……これは確かにウチの娘で、久しぶりに里帰りしたんじゃよ」

そんな事よりも、かねがね楽しみにしていた初孫の顔が見られて嬉しい……老婆はしわだらけの顔をクシャクシャにしながら、赤子をゆすり、あやすのでした。

「あの……すみませんが……」

女は困惑の色を露わにしながら彦兵衛の退場を促しますが、彦兵衛は諦めません。

「いいや、俺は確かに着物の裾から尻尾がのぞいたのをこの目で見たんじゃ……婆さん、あんたが今抱いておるのは、きっと赤カブか何かに違いねぇ!」

そう言って老婆から赤子を引ったくり、両手に高々と掲げました。

「ああっ、何を!」

うろたえる二人を前に、ニヤリと笑った彦兵衛は次の瞬間。

「見ておれ、化けの皮を剥がしてやる!」

何と、赤子を火のついている囲炉裏(いろり)の中へ叩き込んだのでした。次の瞬間、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるのですが、いったいどうなってしまうのでしょうか。

【続く】

※参考文献:
川内彩友美 編『日本昔ばなし 里の語りべ聞き書き 第5集』三丘社、1989年3月

 

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