過信は禁物!福島県に伝わる世にも恐ろしい昔話「三本枝のかみそり狐」【上】:2ページ目
着物の裾から、尻尾が見えた!
すっかり暗くなった竹やぶの中を、女はどんどん歩いていきます。後からつけてくる彦兵衛には気づいていないようです。
(もう随分と歩いたが、この先に何があるんだ?)
やがて竹やぶの向こうに灯りが見えてきました。どうやら彼女の家らしく、戸を叩いて呼びかけます。
「おっ母ぁ、おらだ。開けてくんろ」
こんなところに家などあったろうか……彦兵衛が訝しんでいると、女の着物から、何かがチラチラしているのが見えました。
(……尻尾だ!)
狐が化けて女になりすまし、老婆(母親)を騙そうとしているに違いない……そう確信した彦兵衛は、女が入ったあばら家へ押し込みます。
狐を懲らしめたい一心だったのでしょうが、この時点で彦兵衛の方がよほど犯罪的ではないでしょうか。
奪った赤子を、彦兵衛は……
「誰じゃ、あんた!」
老婆と女がごく当然の反応を示すと、彦兵衛は得意満面で言いました。
「婆さん、気をつけろ。そいつはあんたの娘ではねぇ。そいつの着物から尻尾がのぞいていたのを、俺は見たんだ!」
いきなり何を言い出すかと思えば……老婆はてんから信じていない様子で、娘のしょっていた赤子を下ろし、自分で抱きかかえます。
「何を言うだか……これは確かにウチの娘で、久しぶりに里帰りしたんじゃよ」
そんな事よりも、かねがね楽しみにしていた初孫の顔が見られて嬉しい……老婆はしわだらけの顔をクシャクシャにしながら、赤子をゆすり、あやすのでした。
「あの……すみませんが……」
女は困惑の色を露わにしながら彦兵衛の退場を促しますが、彦兵衛は諦めません。
「いいや、俺は確かに着物の裾から尻尾がのぞいたのをこの目で見たんじゃ……婆さん、あんたが今抱いておるのは、きっと赤カブか何かに違いねぇ!」
そう言って老婆から赤子を引ったくり、両手に高々と掲げました。
「ああっ、何を!」
うろたえる二人を前に、ニヤリと笑った彦兵衛は次の瞬間。
「見ておれ、化けの皮を剥がしてやる!」
何と、赤子を火のついている囲炉裏(いろり)の中へ叩き込んだのでした。次の瞬間、阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられるのですが、いったいどうなってしまうのでしょうか。
※参考文献:
川内彩友美 編『日本昔ばなし 里の語りべ聞き書き 第5集』三丘社、1989年3月