死ぬまで秘めた恋心……一番槍を果たしながら「賤ケ岳の七本槍」から洩れてしまった名将・石川一光【下】:2ページ目
想い人に形見を渡そうとするも……
かくして「一番槍をキメてやるぜ!」と啖呵を切った兵助は、明日の討死を覚悟して奮い立ちます。
そうと決まれば、心残りのないように兵助は自分の兜を持って、同輩の孫六(まごろく。加藤嘉明)を訪ねました。
「おぅ兵助、明日は期待しておるぞ。わしも負けずに励まねばのう」
先ほどの騒動を見ていた孫六は、そう軽口を叩きましたが、兵助の思い詰めた表情は和らぎません。
「いかがした?まさか、今になって怖気づいたのではあるまいな?」
「……違う。孫六よ、これを受け取って欲しいのだ」
そう言って、兵助は自分の兜を差し出します。実は兵助、かねてより孫六に対して恋心を寄せており、自分の形見として大切な兜を託したかったのです。
しかし、そうした心情の機微に疎い孫六は、そんな兵助の本心に気づかないどころか、却ってこれを邪推してしまいます。
「兵助!わしにこれを被らせ、わしが一番槍を果たしたら、それを自分(兵助)の手柄と申す気か!見下げ果てたわ!」
完全に勘違いした孫六は激昂、兵助から兜を引ったくるとこれを地面に叩きつけ、これでもかとばかり踏みにじります。
違う、そのようなつもりは毛頭……なかった兵助ですが、好きな人の前で言い訳がましい事はしたくないと踵を返し、翌日は兜をかぶらずに出陣しました。