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刺客となった悲劇の皇后!日本神話のヒロイン・狭穂姫命と兄の禁断の関係【中】

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垂仁天皇の見た夢と、どこまでも深い愛情

狭穂姫命の涙は垂仁天皇の頬にかかり、それで垂仁天皇は目を覚ましてしまいました。

「あぁ、よく寝た……む?そなた、その涙は何とした!

事情を全く知らない垂仁天皇は、狭穂姫命の泣き顔を見て、大層慌てふためきました。

「どこか身体の具合でも悪いのか?それとも、何か悩みでもあるのか?何でも包まず話すがよい。朕(ちん。天皇陛下の一人称)があらゆる手を尽くして、そなたの笑顔を取り戻して見せようぞ!」

あぁ……この方は、こんなにも純粋に私を愛して下さっていたのに……。そんな良心の呵責から、狭穂姫命は兄の野望や暗殺計画など、すべて包み隠さず白状してしまいました。

「そうであったか……道理で今しがた、錦色の蛇が私の首に巻きついたと思ったら、佐保の方角から湧き起こった雲の降らせた雨が、私の頬にかかった夢を見たのであるな……」

垂仁天皇は実に悩ましくも、怒り切れない表情で言葉を続けます。

「……君臣のけじめがあるため、謀叛人であるそなたの兄は罰せねばならぬが、そなたと、もうすぐ生まれる子供には幸せであって欲しい……たとえ誰の子であろうと、その子に罪はないからのう……」

「!」

結婚してからしばらく、二人の間には子供が出来ませんでしたが、兄との密会を重ね始めた十か月ほど前から、狭穂姫命の母体に変化が表れたのでした。

「朕はそなたと、そなたの子を愛している。かけがえのない家族として……」

垂仁天皇は、何もかも知っていました。その上で、浮気をされてしまうのは我が身の不徳とばかり、狭穂姫命が心から自分に振り向いてくれるよう、兄以上の愛情を注ごうと努め続けてきたのでした。

「主上……!」

自分には、主上の愛情を受ける資格がない。あまりの畏れ多さに言葉もなく逃げ出した狭穂姫命は、兄・狭穂彦の立て籠もる稲城(※1)へと駆け込んだのでした。

【次回に続く】

(※1)現代の東京都稲城市ではなく、稲で築いた城とされる。

※参考文献:
福永武彦 編『現代語訳 古事記』河出文庫、2003年8月5日

 

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