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「郷土料理」はいつから郷土料理になった?郷土・非郷土の区別の歴史を食事の観点から分析

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進行中のプロセス

さらに戦後の高度経済成長期に国内観光が盛んになると、郷土料理は観光資源として積極的に利用されていきます。

とはいえ、旅館や観光地で提供される郷土料理は、必ずしも地域の人々が日常的に食べていたものではなく、観光客向けに演出されたものであることが多いですね。

郷土料理というもののイメージは、必ずしもその地域の人々の日常的な食事メニューを指すのではなく、ある種のブランドを示すものとして独自の発展を遂げていきました。

例えばラーメンは中国由来の料理でありながら日本全国に普及しましたが、これは郷土料理というブランドに取り込まれることでそれまでになかった地域性を帯び、郷土料理として認識されることがあります。札幌味噌ラーメン博多豚骨ラーメンはその好例でしょう。

また、ファストフードやスナック菓子、洋食は非郷土料理として区別されがちですが、どちらも地域の食材を使うことでご当地グルメとして完成するのはよくあることで、「郷土」と「非郷土」の境界も曖昧だと言えるでしょう。

このようにしてみていくと、郷土料理は単なる食事の献立ではなく、地域の歴史や文化を語る装置として機能していることが分かります。

もともと日常的に食べられていた料理が、近代以降の交通・観光・学術研究を通じて「郷土料理」として再定義され、地域のアイデンティティを象徴する存在となったのです。

一方で、非郷土料理もまた日本の食卓に深く浸透し、郷土料理との境界を揺るがしています。結局のところ、郷土料理の誕生とは食事を通じて地域を意識化する歴史的プロセスであり、そのプロセスは今なお進行中だと言えるでしょう。

郷土料理という概念は、私たちがその時々で「郷土」なるものをどのように認識し、表象しているかを映し出す鏡なのです。

画像:Wikipedia,PhotoAC

 

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