『べらぼう』暴走する蔦重と定信をたしなめる人々と、「そうきたか!」な蔦重マジック【後編】:4ページ目
空気を大きく変えた「屁」の力と「そうきたか!」の力
ところが、ここからが今回は大きな見せ場となりました。
修復不可能と思われるような絶望的な状態な店を見て、「いやあ〜これは本当に『半分』だねえ」と不謹慎なほどに大爆笑しながらやってきたのは、太田南畝(桐谷健太)でした。
江戸や狂歌から遠ざかっていた南畝が、久々に耕書堂を訪れたのでした。そして、「蔦重!見に来たのだ!世にも珍しい身上半減とは、見ておかねばと思うてな」と快活に笑いながら、大声で話します。さすがは「屁」の神様。
悲惨な状態の店にご近所の人々も眉を顰め暗いムードが漂うなか、「見事な半分ぶり!」と大爆笑できるのはこの人しかいませんね。南畝の大袈裟なパフォーマンス、明るい大声、大笑いに、いつしか周囲の人々も笑いはじめます。
皆、定信の政策に内心、うんざりしていたのでしょう。大真面目に「身上半減」の罰を下した定信や、律儀に全て半分に切って持ち去るお役人をバカにして笑う気持ちもあったのでしょう。南畝の「こりゃあ、可笑しい」の爆笑を皮切りに、笑いは連鎖しました。蔦重の信条である「人々を笑顔にする」が戻ってきた瞬間でした。
周囲の人々の笑顔を見て、ニヤリといつもの「ひらめきの表情」を浮かべた蔦重。大声で「みの吉!何かでけぇ板、後、筆と墨!」と命じ、大きな字で『身上半減ノ店』と書き上げます。そして、「そう!身上半減ノ店はこの日の本で蔦屋だけ!」と口上を述べました。
この切り替えの速さ、ピンチをチャンスに変えるしたたかさはさすがです。「世にも珍しい、身上半減の罰を受けた店はこの蔦屋耕書堂だけ!さあさあ、寄っていきな!」とばかりに、流れを変えました。この蔦重の発想力に南畝は「そう来たか!」と大爆笑、さらに皆も大笑いします。
これは、もしかしたら南畝の作戦だったのかも。蔦重が捕まり店がピンチになったことを聞き、わざわざ「身上半減」の罰が下される日を選んで、あの皆を「屁」で巻き込んだときのように、悲惨なムードを笑いに変えちまおうという計画だったような気もします。
以前、「お前さんには、他のやつが持っていない“”そうきたか!”と思わせるアイデアがある」と蔦重を褒めていた南畝。
店は悲惨な状態になっているはず、ならばいっそ大笑いして笑わしてやれ。皆が笑えば、蔦重も『そうきたか!』なアイデアを出すに違いないと、信頼したうえでの助け舟だったような気もします。
蔦重の「閃いたぜ!」といわんばかりのニヤリ顔を見ると、いつもの調子が戻ってきたなと嬉しくなるものです。
さて、放送回数が徐々に少なくなってきた「べらぼう」。表裏一体の蔦重と定信はどう変わっていくのか。これからの展開もしっかり見守っていきたいと思います。

