『べらぼう』ブチギレる蔦重、暴走する定信…実は”表裏一体”な二人が守ろうとしているものは?【前編】

高野晃彰

「面白えもんを作るのを諦めねえってことが、黄表紙の灯を守ることだ」

大河べらぼう第38回『地本問屋仲間事之始』。愛する人々の死・無念・苦境……いろいろな思いを抱えていた蔦重(横浜流星)は、闇堕ちしそうな寸前で、周囲の助けもあり本来の「黄表紙にかける想い」を取り戻しました。

第36話『鸚鵡のけりは鴨』から物語は大きく動きました。黄表紙本『鸚鵡返文武二道』松平定信(井上祐貴)の怒りを買い、恋川春町(岡山天音)が切腹。

これにより、深く悩み苦しんだのが蔦重と松平定信です。取り締まる権力者側とそれに抗う蔦重。相反する立場ですが、春町の死により“己の判断を顧みて”苦しみ、その死を無駄にしてはならぬとばかりに、二人とも間違った方向に暴走していきます。

37話から今回38話まで、立場もやることも違う二人が実は“表裏一体”であるということが鮮明に描かれました。

家臣がドン引きするほど「倹約の道」に爆走する定信。方やさらに幕府を批判する新しい黄表紙本の提案をてい(橋本愛)に大反対され、北尾政演(古川雄大)とは衝突する蔦重。

SNSでは「蔦重が闇落ちした」「本来のエンタメのよさを忘れてしまった」という意見も散見しました。けれども、ていや政演と、蔦重が背負っているものや危機感は大きく異なります。

前回から今回にかけての展開の中を振り返り、江戸の出版業界の苦難、もがき苦しむ蔦重と定信、頼もしい周囲の人々の力などを考察していきます。

2ページ目 立場は違えども苦しむ二人

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