【べらぼう】で言及された芝全交(亀田佳明)の黄表紙『大悲千禄本』とはどんな物語なのか?:2ページ目
第三章「借りた手の使い方」
さぁ、千手観音の手を借りた皆さんは、ちゃんと活用できているのでしょうか……。
茨木童子は「こんなスベスベの手じゃあ格好がつかない」と、人形師に頼んで鹿の毛を植えてもらいました。
平忠度は間違えて左手を借りてしまい、せっかく歌を詠んでも文字が反転してしまいます。
「これじゃ格好がつかないから、詠み人知らずとしておこう」
手のない遊女は手を使ってうまく接客していたものの、ちょっと貸しだったので時間切れに。
「お手が鳴るならお銚子、お手がないからお笑止と笑っておくんなんし」
字の書けない男は字が書けるようになりましたが、なにぶん仏様だから梵字しか書けません。
「何だこの手は、役に立たんな。そのまま返すのも癪だから、爪に火を灯してロウソク代わりにしてやろう」
「あちっ!あちっ!」
「ロウソクのくせに、やかましいな」
……とまぁそんな具合で、みんなやりたい放題の好き勝手に活用?したようです。
第四章「貸した手を回収すると……」
手をすべて貸し出してしまい、手が残っていない千手観音の元へ坂上田村麻呂(さかのうえの たむらまろ)がやってきました。
「鈴鹿山の鬼退治に、千手観音様のお手を拝借したい」
ひとたび放てば千の矢先……を飛ばすお決まりの名場面を演出するためには、どうしても千本の手がなくてはなりません。
※一筋の矢を放つには一対の手で弓を扱わねばならないはずですが、そんな野暮はご無用に願います。
緊急事態ということで、千手観音は千兵衛と一緒に貸し出していた手をすべて回収。今度はそれを田村麻呂に貸し出してもう一儲けしました。
しかし回収した手を調べてみると、どれもこれもボロボロです。
女郎に貸した手は小指が切り落とされ、握りこぶしの手は喧嘩したのか傷だらけ。塩屋に貸した手は塩辛く、紺屋に貸した手は青く染まり、下女に貸した手は糠味噌の匂いがとれません。
飴屋に貸した手は粘ついており、飯炊きに貸した手はあちこちしもやけ、米搗屋に貸した手は肉刺だらけです。
他にも剛毛が生えていたり指先が焦げていたり……人差し指と中指から変な匂いがするのは……きっと女性が指人形の二人組(自慰)に使ったのでしょう。

