大河「べらぼう」蔦重と誰袖それぞれの“夢” 〜本音と本音が溶け合ったあの名シーンを考察【後編】:2ページ目
ほかの遊女に「図星」を突かれ二階から飛び降りる暴挙に
誰袖は、松前藩の抜荷の証拠をつかむため藩主の弟で江戸家老・松前廣年(ひょうろく)を色仕掛けで落とし、“琥珀の抜荷”をするよう仕向けました。いかにも廣年に本気で惚れているように見せかける手練手管はさすがでしたね。
ところが、今いち罠にかからない廣年。とうとう吉原通いが兄・松前道廣(えなりかずき)に知られることとなり、意知の思惑通り欲の塊の道廣が自ら“琥珀の抜荷に参戦する”ということに。
そんな時に起こった「天明大噴火」により、利害関係だけのように見えた誰袖と意知がお互いの本心を知ることになったのです。
噴火で吉原も灰だらけになり、後始末に大奮闘する意知を見つつ「何もあそこまで張り切らずとも、どうせなら中でゆっくりしてらっしゃればよいのに…」とぼやく誰袖。
けれど「それはそれで」とうっとりと意知を眺めていたら、ほかの遊女わかなみ(玉田志織)が彼を誘惑する場面を目撃してしまいます。
「その方はわっちの…色でありんす」と牽制するも、「随分と必死で…もしや色と思っているのは花魁だけでは?」と返され(この、図星ぶりは以前もこのような確執が二人の間にあったような)、かっとなって二階から飛び降り、わかなみに襲いかかります。
出会ってから時が流れているのに、いまだに男と女の関係になっていない誰袖と意知。
そんな関係に誰袖も不安を感じていたのでしょう。二人の取っ組み合いは
「こうなったら誰も止められない」と周囲がいうほど激しいものになり、いつものしなだれかかってくる色っぽい花魁しか見たことのないお坊ちゃんは、呆然として何もできませんでした。
その後、意知が大文字屋で食事をしているとことに、誰袖が入ってきます。乱れた下ろし髪に普段着にすっぴんに近い薄化粧。
「かような格好でご無礼いたしんす」ときまり悪そうな表情の誰袖に驚いたように「あ、いや」という意知ですが、先ほどの怒りを爆発させた姿や、少女にように頼りなげになった素顔を初めてみて驚き、その意外性に惚れたのだと思います。
そんな「恋が芽生えたタイミング」で、吉原を訪れた松前藩江戸家老の呼出を受け、計画を悟らせぬため座敷に向かっていく誰袖。豪華な花魁姿のときよりも小さく見える後ろ姿を見て、改めて意知は「自分のせいで危険な真似(スパイ)をさせている。この女性を吉原の女郎化業から救い出したい」と本気で思ったのではないでしょうか。
スパイ行為がバレないように、惚れた男の前から、惚れてもいない松前廣年の座敷に向かわなければならないのが吉原の残酷さ。けれど、自身が背負った「責」は最後まできっちり果たす……そんな花魁に、漢気のようなものを感じる場面でした。

