早く藤原泰衡を討ちたいが…迷える源頼朝に決断を促した武将・大庭景能の進言:2ページ目
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「古来『軍中にて大将の命令は天皇陛下の勅命よりも優先される(軍中聞將軍之令不聞天子之詔)』と申します。なぜなら、戦場から遠く離れている朝廷では現場の事情が分からず、その判断を待っていたら全滅してしまうからです」
「ほう」
「そもそも泰衡は源家代々の御家人であり、その処罰についていちいち朝廷の許可をいただく必要はないのに、わざわざお知らせ申し上げているのですから、筋は十二分に通しております」
「なるほど」
「さぁ、こんなことでいつまでもモタモタしていては戦機を逃し、泰衡に利するばかりでございますぞ」
そう聞いて胸のつかえがとれた頼朝公は皆に出陣を命じ、景能には鞍のついた駿馬を褒美として与えられたということです。
終わりに
将在外、君命有所不受
【意訳】将の外に在りては、君命も受けざるところあり。
と、古代中国の兵法書『孫子(そんし)』にもある通り、安全な後方から机上の理想をあれこれと口出しすることが、現場の者たちを危うくする事例は枚挙に暇がなく、景能の進言は実に的を射たものでした。
もちろん、平素において上位者の命令に従うことは基本ですが、組織の目的を果たす上で臨機応変に融通を利かせる柔軟性も、変化の多い時代には求められているのではないでしょうか。
令和4年(2022年)放送予定の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に大庭景能が登場するかは分かりませんが、奥州征伐の名場面ですから、是非とも演じて欲しいところです。
※参考文献:
- 五味文彦ら『現代語訳 吾妻鏡 4奥州合戦』吉川弘文館、2008年9月
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