戦国時代、名だたる敵の首級を上げることは大きな名誉でした。となれば当然、反対に首級を奪われることが大変な不名誉であったことは言うまでもありません。
もちろん、命を惜しんで見苦しい振る舞いに及ぶことはもっと不名誉ですが、なるべくならば首級は奪われたくないもの……そこで往時の武士たちは、どうにかして敵に首級を奪わせまいと知恵を絞りました。
今回は、そんな知恵が記された武士道バイブル『葉隠(はがくれ。葉隠聞書)』の一説を紹介したいと思います。
果たして彼らは、どのように首級を隠したのでしょうか。
どうせ隠し切れないならば……
五七 顔面の皮の剥やう(はぎよう)の事。顔を竪横(たてよこ)に切裁(きりたち)、小便を仕懸(しかけ)、草鞋(わらじ)にてふみこくり候えば、はげ申候由(そうろうよし)、行寂和尚京都にて承り候との咄(はなし)也。秘蔵の事也。
※『葉隠』巻第十より
【意訳】
顔の皮膚のはぎ取り方について。まずは顔面を縦横(ズタズタ)に切り裂き、そこへ小便をかけてから草鞋で何度も踏みつければ、皮膚はボロボロに剥がれるそうな。
行寂和尚が京都で聞いてきた話だが、これは秘伝である。
……人間の顔というものは、皮膚を剥ぎとって筋肉をむき出しにすると、よほど目立つパーツがない限り、誰が誰だか判らなくなってしまいがち。
だから、どうしても首級を隠し切れない(※)時は、いっそ顔の皮を剥いでしまえば、たとえ敵に見つかっても、それが「主君の首級だ」と見破られにくくなります。
(※)すぐに思いつくのは「穴を掘って埋める」「滝壺などに放り込む」などの手段ですが、予て用意がしてあることもないでしょうから、付け焼き刃の隠蔽では間もなく発見されてしまうでしょう。