迷信?はたまた先人の知恵?日本で大流行したあの疫病と「赤色」の奇妙で不思議な関係:3ページ目
長野県の若宮八幡社には金毘羅様と並んで、赤く塗られた疱瘡神の社殿があります。その周辺地域では、正月にまつるしめ縄を、半分ほど赤く塗る風習が長く続いていたとか。
また、民間信仰やお祭りなどにとどまらず、赤色が持つ霊力を表現した芸術品もあります。江戸時代末期に登場した「疱瘡絵(赤物)」です。
これは疱瘡にかかってしまった子供を慰めるために、お見舞い用などで作られたもので、回復すると焼いたり川に流したりしたそうです。
疱瘡絵によく描かれたのが、先述した鎮西八郎為朝や、中国の故事に登場する「鐘馗(しょうき)」、また同じく中国の幻獣である「猩々(しょうじょう)」などでした。現存する疱瘡絵の多くは赤色で描かれており、また猩々そのものも全身が朱色の長い毛で覆われているとされています。
「赤色」に秘められた不思議
もちろん、こうした「赤色による病魔退散」のイメージは、科学と医学が進歩した現代から見れば迷信以外の何物でもありません。ただ、歴史の不思議なところで、そうした迷信には、実は意外な効果を持つものもあったようです。
例えば、先に挙げた、疱瘡の患者の周囲を赤色ずくめにする治療法(おまじない?)は、紫外線を遮って皮膚の炎症を抑えるという意味ではあながち馬鹿にできません。
また、古墳時代の墳墓では、古墳内部の石室の内側や棺などに、赤色の顔料(朱)が大量に用いられていました。呪術的意味合いもあったと思われますが、この顔料には水銀が含まれていたことから、防腐剤としての効果もあったようです。
古今東西の遺物や遺跡を見ると、昔の人が、今では考えられないような高度な知識を持っていたかのような痕跡に驚かされることがありますね。現代のような科学的知識が無いはずなのに、「当時の人はどこまで知っていてやっていたんだろう?」と不思議になります。
今回は特に日本の例のみを挙げましたが、赤色をはじめとする数々の「色」が霊的な力を宿しているとして医療に用いられた例は、世界史的に見ても数え切れないほどたくさんあります。
「色そのものが病気や怪我を治してくれる」という考え方は、今では迷信のようなものです。しかし、私たち人間が時代や国境を越えて、「色」に対する共通の感じ方やイメージを持っているというのは事実です。よく考えてみると、それ自体が神秘的で不思議なことです。
今では迷信として切り捨てがちな数々のおまじないの中にも、実は現代人がまだ知らない先人の知恵や、秘められた「不思議」が隠れているかも知れません。
参考資料
長崎盛輝『色・彩飾の日本史 日本人はいかに色に生きてきたか』(平成2年、淡交社)
畑中章宏「感染症と赤のフォークロアー民俗学者 畑中章宏の語る「疫病芸術論」の試み」