どんな美食もかなわない!?天下人となった豊臣秀吉が懐かしんだ故郷の味:2ページ目
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叔母さんの麦メシ
古来「空腹こそ最高の調味料」とはよく言ったもので、秀吉は晩年、家臣たちにこんな昔話を繰り返していたそうです。
「わしは天下四方のあらゆる美食珍味を楽しんだが、まだ若い時分、親の使いで叔母の家に行った折に喰わせてもろうた麦メシ以上に美味いものを喰うたことがない」
天下人が「これ以上に美味いものはない」と断言する麦メシとは、いったいどんなものなのでしょうか。
「……たいそう腹が減っておってな、暑い盛りじゃったから水をぶっかけて喰うたんじゃ。塩さえ振らなんだから、もちろん味なんてありゃしない……それでもわしは、あれより美味いものを喰うたことがない……」
喉が渇いた、腹が減った。フラフラになりながら、半ば朦朧とした意識の中で一心不乱にかっ込み、流し込んだ水と麦メシ……全身が潤っていくのが解る。生命が歓んでいるのが感じられる。
「あぁ、生きとって良かった……わしは確信したものじゃ……」
あまりの美味さに、泣いていたのかも知れません。涙の塩気が、絶妙な味わいを引き出したことでしょう。
「この味を忘れさえしなければ、この先どんな事があろうと、わしは必ず生き延びられる……そう思って遮二無二働き、こうして天下が獲れたのじゃから、叔母には足を向けて寝られんわい」
糟糠の妻(北政所、おね)が聞いたら嫉妬しそうな話ですが、心底腹が減った時に喰ったものは何より美味い。一粒の米、一杯の水に感謝した秀吉らしいエピソードとして、今も愛されています。
※参考文献:
永山久夫『武将メシ』宝島社、2013年3月
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