駆け落ち料金2倍に。矢切の渡し船が値上げ
東京江戸川を行き来する「矢切の渡しが値上げ!」という大ニュース?が下町を駆け巡っております。片道100円が200円になるのですから、交通機関としては異例の、一気に2倍の値上げ。私鉄やJRなら大騒ぎになっている値段です。
「矢切の渡し」とはもちろん、駆け落ちする二人の恋の道行きを歌った細川たかしさんの演歌でも有名になった渡し舟。どこにでも橋がかかって行き来できる現代とは違って、渡し舟はかつては対岸に往来するには欠かせない交通機関。江戸時代には江戸川にいくつもの渡船があり、人や物資を運ぶ輸送網として使用されていました。
その名残りで現在江戸川に唯一つ残されているというのがこの「矢切の渡し」。
つい20年ほど前までは通勤や通学にも使用していた人がわずかにいたようですが、最近はもっぱら観光用。寅さんの故郷として有名な東京葛飾柴又を訪れた人たちのアトラクションの一つです。
しかし風光明媚な風景があるわけでも、川の流れが美しいわけでもありません。ただ柴又と対岸の松戸へ渡るだけ。ものの5分もあれば着いてしまうという本当にただの「渡船」で、派手さのない、かなり地味な観光名所と言えましょう。
と言うのもこの渡しは駆け落ち用?ではなく、土地のお百姓さんが、農産物を運んだり、現金収入を得るために営まれていました。現在のこの渡しを漕いでいる船頭さんも、ご先祖からの仕事を引き継いでいる方で、言わば「無形文化財」のようなものなのです。ですから国土交通省の「客船事業」の認可とか、そういう無粋なものは持っていません。あくまで「渡し守」という伝統芸?を受け継いでいる渡しなのです。
無形文化財を体験するのに200円は十分安い!消費税も値上がりする中、33年ぶりの値上げは納得するしかありません。景色は平凡ですが、農産物の影に身を潜めて駆け落ちする恋人たちのことを思えば、なんとなく風情があります。そんな想像力を逞しくして、柴又観光を楽しんでみて下さい。