『べらぼう』総集編、1年間の“夢噺”をありがた山!高い志と行動力で出版界の風雲児へ【蔦屋重三郎・前編】

高野えり

大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の『総集編』が放送されました。ほんとうにこれで最後でしたね。

“戦国物しかヒットしない”という声もある中で、2年間続けての文芸大河。合戦もなく天下取りの武将も出ず、江戸の町人で出版人が主人公だった「べらぼう」。けれども、森下佳子氏脚本によるエンターテイメントの持つ魅力に、ワクワクドキドキ「そう来たか!」と驚かされ続けたこの一年でした。「べらぼう」は、NHKプラス配信の歴代大河ドラマで最多視聴率を記録しました。

もう少し、余韻に浸りたいところでしたが、公式HPも2026年1月5日の夜で終了とか。動画投稿も順次削除される予定だそうです。

総集編のお供として、過去の放送を振り返り、【吉原遊女編】【チーム蔦重編】【4人の女神編】をお送りしてきました。

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今回は、最後に総集編を振り返りつつ、【蔦屋重三郎編】として、心に残る名場面を前編・後編に分けてピックアップしたいと思います。

蔦重(彼だけではありませんが…)の言葉は、「現代に生きる私たちも共感したり教えられたりするものばかり」でした。1年間“夢噺”に酔わせてくれた「べらぼう」にありがた山の感謝を込めて。

周囲の人を巻き込み愛された人

蔦屋重三郎(横浜流星)というと、江戸の出版界で大成功した人物というイメージが強いもの。

けれど、以前、森下さんは「ビジネスサクセスストーリーではなく、“蔦重が周囲の人々を巻き込んで、人々を豊かにする人間性”を描いていく」ということを言っていました。

実際、宿屋飯盛(又吉直樹)が贈った蔦重の墓石碑にも、

“その人となりは志・人格・才知が殊更に優れ、小さなことを気にもかけず、人には信頼をもって接した。柯理(からまる)は、陶朱公を手本として事業を展開させていった。”

という一文があります。若い頃から暴走し周囲の人々に迷惑をかけたり、鈍感だったり、強引に甘えたりしつつも、生涯を通じて“べらぼうに愛されてた人”だったと思います。

全編を通して、蔦重の “思いついたらまず行動”の精神でクリエーターが育ち、作品が生まれ、それが世の中に行き渡り、平賀源内(安田顕)の「書をもって世を耕す」が実現したのだなと改めて感じました。

「吉原をもっといいところに」志の高さと行動力

明和9年(1772)の明和の大火。半鐘を鳴らし続ける蔦重の姿から「べらぼう」は始まりました。

若い頃で印象に残ったのは……「お姫様方、貸本屋の蔦重がまいりましたでございますよ!」という妓楼に訪れる時の挨拶。立派な妓楼でも最下層の浄念河岸見世の二文字屋でも、店に入るときは明るく元気に “お姫様方!”というのが好きでした。

岡場所が増え吉原の客が減り、女郎が飯を食えず死んでいく。そんな窮状を見かねた蔦重は、妓楼主たちに抗議しますが、けんもほろろでした。平賀源内に相談すると「田沼様(渡辺謙)は話を聞いてくれる」とアドバイスされます。

「それで本当に会いに行ってしまうのが蔦重のすごいところでした」と、飯盛のナレーションが入りました。“実際に行動に移す”は、最後まで貫いた彼の流儀でした。

さらに、意次に岡場所への警動(の手入れ)を願い出るも断られ「お前は吉原に人を呼ぶための工夫が足りていないのでは?」と言われたことが出版ビジネスのきっかけとなりました。

苦言に凹むのではなく「まこと、ありがた山の寒ガラスにございます!」。とポジティブな発想転換に繋げるところもすごい。

吉原のガイドブック『吉原細見』の冒頭に、読んだ人が思わず行きたくなる序文を載せるというアイデアを思いつき、源内に依頼しまう。

蔦重にあるのは天性のひらめき、アイデア、行動力だけではありません。

「俺は吉原を江戸っ子の憧れの場所にしたい。見下される場所じゃなくて。花魁なんか高値の花で……」という、大切なふるさとである吉原をよりよい場所にしたいという、強い“志”が彼を支えていたのですね。

3ページ目 「女の股で飯食ってる腐れ外道の忘八の心意気」

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