『べらぼう』恋川春町の“豆腐オチ”の切腹…“推しの死”に慟哭する定信の心情を考察【後編】

高野晃彰

「恋川春町は当家唯一の自慢。私の密かな誇りであった。お前の筆が生きるのなら、私はいくらでも頭を下げようぞ」と、小島松平家の藩主・松平信義(林家正蔵)の言葉に、ぐっと涙を飲み込み礼を述べる恋川春町(倉橋格/岡山天音)。

けれども、怒り心頭の定信は春町が「病で寝込んでいる」という言葉を仮病だと疑い(仮病でしたが)、邸に訪ねて来ようとします。

もはやこれまでと死を選んだ、そんな恋川春町の切腹は、大きな反響を呼びました。

切腹の方法や、辞世の句に万感の思いが込められていたからです。

春町のメッセージを紐解いて、泣き笑いするチーム蔦重の、信義が定信に怒りを込めて春町の死を伝えたときの怒りと悲しみがこもった、初めてであろう定信の慟哭を考察しました。

【前編】の記事↓

『べらぼう』恋川春町の覚悟の死とSNSで「理想の上司」と絶賛された主君・松平信義の言葉を考察【前編】

「戯ければ、腹を切られねばならぬ世とは、一体誰を幸せにするのか」主君やお家を守るため、切腹せざるおえなくなった恋川春町(倉橋格/岡山天音)の死を、松平定信(井上祐貴)に伝えに出向いた、小島松平家の…

「豆腐の角に頭をぶつけた」オチを即座に理解した妻と仲間

黄表紙本で“推しの作家”たちが自分の政策を褒めてくれているとばかり思っていたのに、実はディスられていた。思ったように自分の政策が上手く進まず疎外感も覚えるようになると、悪口には敏感になってしまうもの。

恋川春町を呼び出し来れないなら「屋敷に行く」と言い出すものの、切腹を申し付けるる……とまでは考えておらず、「二度と書かないように」と厳しく言い渡すつもりだったのではないでしょうか。

史実では、春町は切腹ではなかったという説もありますが、ドラマでは切腹を選ぶという流れになっています。「皆に迷惑をかけるので…」という内容の遺書を書きながら、「恩着せがましいな」と破ってしまう春町。

これから切腹するのに、遺書に“シャレが効いていない”と感じたのでしょう。筋金入りの戯作者でした。さらに、腹を切ってから、たらいに水を張り浮かべた大きな豆腐に頭をぶつけて息絶えます。

小島松平家の藩主・松平信義(林家正蔵)に使える家臣としては、白装束で作法にのっとり切腹をするも、戯作者・恋川春町としては「豆腐の角に頭をぶつけて死ぬ」というオチを付ける。切腹という覚悟を決めたとき、そこまで考え、腹を切った状態でそれをやりとげるという、姿が凄まじかった。

訃報を受け、訪れた朋誠堂喜三二(平沢常富/尾美としのり)と蔦重(横浜流星)。春町の髪に豆腐が付いていることに気がつき、破り捨てた遺書があったことを知ります。

春町の妻・しず(谷村美月)は、夫の残したメッセージの意味が分かったのでしょう。片付けずに、そのままを伝えました。

4ページ目 「戯作者として権力に屈して死んだ」のではないというメッセージ

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