大河「べらぼう」蔦屋重三郎の夢を支えた『男気』〜浄瑠璃の馬面太夫と富豪の鳥山検校〜【前編】

高野晃彰

「おさらばえ」……

美しい膝折礼で最後の別れを告げ、大門を出て行った瀬川花魁(小芝風花)。

大河ドラマ「べらぼう」の第10回「『青楼美人』の見る夢は」では、その美しい白無垢姿、俯瞰カメラから映した高下駄が描いた見事な八文字の軌跡、大門で迎えた蔦重と唇に笑みを浮かべ去って行った瀬川の間に漂う強い絆などが、SNSでもかつてないほどの大反響を呼びました。

今だ、あの「大河史上に残る神回」とも言われる、名場面の余韻に浸っている人は少なくありません。

第11回「富本、仁義の馬面」では、鳥山検校(市原隼人)に身請けされた瀬川が、名前を「瀬以」(せい)と改めたことが分かりました。「吉原をもっといい場所に」という夢を抱くもの同士の絆は切れないはずですが、二人の関係は新しい章に入ったのです。

そして、吉原の「俄(にわか)祭り」をきっかけに、蔦重は浄瑠璃の世界に飛び込んでいきます。

※第11回 放送の解説&振り返り記事↓

【大河べらぼう】日光社参の盛り上がり、エレキテル登場、役者は四民の外?ほか…3月16日放送の解説&振り返り

実にいい本なんだけど、高品質≒高価格が仇となって売れなかった『青楼美人合姿鏡』。階段から投げ転がされ、足を挫いてしまっても、心まで挫ける蔦重(蔦屋重三郎。横浜流星)ではありません。[capti…

今回のテーマとして全編に流れていたのは「男気」です。江戸浄瑠璃のスター、富本豊志太夫/午之助(寛一郎)、その浄瑠璃の元締めである鳥山検校ほか、のちの固い経営基盤となる新しい局面を迎えた蔦重のビジネスに関わる、さまざまな立場の「男気」を、「俄祭り」とともにご紹介したいと思います。

亡八が思いついた「俄祭り」を盛り上げる方法

浮世絵師・北尾重政(橋本淳)と勝川春章(前野朋哉)の競作による、吉原の遊女たちの艶姿を描いた豪華絢爛の錦絵本『青楼美人合姿鏡』は、非常に美しい仕上がりであったものの、高価で売れませんでした。

作り手が情熱を注いで作った素晴らしい作品でも、「欲しいけれども買える価格」でなければ「売れない」という現実は、現代でもモノづくりに携わっている人間にとっては非常にリアルで身につまされる話です。

そこで打開策を提案したのが、吉原の妓楼主・亡八軍団の中でも一番短気で凶暴な大文字屋市兵衛(伊藤淳史)でした。吉原の人気イベント「俄祭」を盛り上げ多くの人を呼び、現場で物販を行い『青楼美人合姿鏡』を売ろうというアイデアを出します。

江戸時代の吉原は、男性客が遊女たちを買いに来るだけではなく、最大の観光地でもありました。江戸見物に来た人たちは、浅草寺に参詣したあと足を延ばして吉原見物をするのが、定番の観光コースになっていたそうです。

そんな吉原では大きな祭を行えば多くの人々が訪れます。大きなイベント会場で物販のブースが出揃って賑わうのは今も同じですね。

3ページ目 遊郭の息抜きとアピールの意味もあった「俄祭り」

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