平安文学の最高傑作『源氏物語(げんじものがたり)』と言えば、主人公の光源氏(ひかるげんじ。源光、光の君)を取り巻く多彩な女性陣を連想する読者が多い事でしょう(筆者もその一人です)。
しかし登場するのはやんごとなき貴婦人ばかりではなく、一風変わった強烈な個性のキャラクターも舞台を賑わします。
今回はそんな一人、近江の君(おうみのきみ)を紹介。笑われ役として登場する彼女ですが、筆者は嫌いじゃありません(願わくは、あなたも好きになってくれますように)。
さて、どんな人物なのでしょうか。
「あたいがんばる!」おてんば少女の姫さま修行
近江の君は光源氏のライバル・頭中将(とうのちゅうじょう。藤原氏だが実名は不詳)の娘ですが、母親は身分の低い女性で、父親からはその存在=生まれたことさえ知られていませんでした。
(※頭中将は通称で、物語が進んで出世すると呼び名も変わりますが、便宜上一貫します)
それがいきなり頭中将に迎えられたのは、近ごろ光源氏が隠し子・玉鬘(たまかづら)を見つけ出し、それが評判となっていたのが妬ましくて「自分にも隠し子がいないか≒かつて関係を持った女性が、人知れず子供を産んでいないか」探させた結果、近江国(現:滋賀県)あたりで見つけたというのです。
「ふーむ、よく似ている。この顔立ちを見ると、やはり我が娘に間違いないな」
確かに、黙っていれば美人なのですが……。
「キャー、お父ちゃ~ん!」
いかんせん下民の間で育ったため、言葉づかいや振る舞いに品がなく、聞けば出産に際して祈祷してくれた僧侶が早口だったのが伝染ってしまった、と言うことでした。
「……まぁ、磨けば光る……かな?」
「うん。よくわかんないけど、あたいがんばる!」
こうして近江の君のやんごとなき?姫さま修行が始まるのですが、何を学ばせても教養が身につかず、とても貴族社会で生きて行けそうにありません。