人間、歳をとると代謝が落ちてくるのか、若い頃に比べて食べる量が少なくなっても太りやすくなりがちです。
だから食べる量を減らしたり、運動に励んだりなどダイエットするものですが、胃袋が新しい生活様式に慣れるのには時間がかかり、空腹が辛かったり運動するにも力が出なかったりなど、色々と支障が出るもの。
そこで健康維持(あるいは回復)と満腹感の両立を図るのですが、今回はダイエットに挑戦した平安貴族・藤原朝忠(ふじわらの あさただ)のエピソードを紹介したいと思います。
ダイエットに挑戦するも……
藤原朝忠は平安時代中期の延喜10年(910年)から康保3年(967年)にかけて生きた歌人で、三十六歌仙(さんじゅうろくかせん)にピックアップされたほか、小倉百人一首でも「中納言(ちゅうなごん)朝忠」という名前で登場します。
四十四番 逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし【意訳】もう二度と逢わないと分かっているなら、逢ってくれないあの人の冷たさも、逢えずにいる我が身の不運を恨みもしないものを……
その才能は和歌だけでなく、笛や笙(しょう)など器楽にも秀でていたそうですが、とにかく肥満体で、据わるのにも苦労するほどだったそうです。
「おい、何とかならんか」
朝忠は医師を呼んでアドバイスを求めたところ、医師は食生活の改善アイディアを示しました。
「ご飯を炊いてそのまま食うのではなく、夏は水漬け、冬は湯漬けにして食うと、早く腹が膨れるので、食う量を減らせるでしょう」
「おぉ、それなら簡単そうだ。さっそくやってみよう!」
……さて、しばらく経って医師が再び往診すると、朝忠は痩せたどころかますます肥え太っているではありませんか。
「お前のアドバイスどおりにしたのにこのザマだ、どうしてくれる!」
「あの……私の言ったこと、ちゃんと守ってました?」
「もちろんだ!嘘だと思うなら、これから食事だから見ておけ!」
果たして朝忠の食事を見てみると、確かに水漬け飯なのですが、サラサラ食えるからと、食う量は以前と同じかそれ以上。
「あのですね。大事なのは湯水で腹を膨らませて食う量を減らすことであって、食いやすいからとたくさん食っていたら、痩せるはずもないでしょう」
……おしまい。