昔から「可愛い子には旅をさせよ」とは言いますが、自分の元から巣立っていく子供や孫を見送るのは、いつの世も辛いものです。
愛情ゆえにあれこれと心配してしまう「老婆心」は神様たちも同じ……そこで今回は日本の神話である『古事記』『日本書紀』より、旅立つ孫を想う祖母のエピソードを紹介したいと思います。
旅立つ孫に「贈る言葉」
今は昔、天上の世界である高天原(たかまがはら)を治めている女神・天照大神(あまてらすおおみかみ)は、地上の世界である葦原中国(あしはらのなかつくに。現:日本の大部分)を治める大国主命(おおくにぬしのみこと)に対して、紆余曲折の末に国を譲らせました。
(※このエピソードが有名な「国譲り」ですが、その詳細はまた今度)
「さて……譲らせたはいいものの、葦原中国を誰に治めさせようかしら……」
まずは息子の正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)……長いので略して天忍穂耳命に「あなた、お行きなさい」と言いましたが、彼は「あんな物騒なところに行きたくない」と嫌がります。
以前、派遣しようとした時も同じことを言っていたので「やっぱりね」という感じですが、それなら……と、今度はその天忍穂耳命の息子、天照大神にとって孫(天孫)に当たる天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(あめにぎしくににぎしあまつひこひこほのににぎのみこと)……これまた長ったらしいので略して邇邇芸命(ににぎのみこと)に「あなた、お行きなさい」と命じたところ、今度は快諾してくれました。
あぁ良かった……とは言うものの、自分で命じておきながら、やっぱり可愛い孫が旅立ってしまうのは心配でなりません。
そこで天照大神は邇邇芸命が葦原中国へと旅立つ(天孫降臨)当日、邇邇芸命に餞(はなむけ)を贈りました。
2ページ目 天壌無窮(てんじょうむきゅう)の御神勅(ごしんちょく)