ガンダムや源氏物語と同じセオリー 香川照之さんの襲名披露
六月に歌舞伎の初舞台を踏み、ワイドショーなどでも話題になった香川照之さんの「市川中車」襲名披露。
長年絶縁状態にあった父親・市川猿之助さん改め猿翁さんと和解して、息子團子さんと一緒の梨園の門をくぐった新橋演舞場の初舞台は、連日大入りの中で今週千秋楽を迎えようとしています。
しかし舞台以上にわれわれ一般人が注目してしまうのが、父親猿翁さんとの昨年からの一連の流れ。断絶していた父子が手を取りながら記者会見に現れた姿や、父親の背後から黒子として現れた香川さんの姿は、歌舞伎以上に歌舞伎のようで、家族の再生と復活の物語に思わず涙してしまったオバサマたちも多いかと思います。
両親の離婚によって歌舞伎界の「御曹司」ではなく、普通の子どもとして母親のもとで育ち、役者として活躍を遂げながら、ついには梨園に返り咲くという物語はまさにドラマです。
でもどうしてこんなにこのニュースが面白いのかなー、とよくよく考えてみると、この香川さんの梨園への復活劇、実は日本の神話や物語に出てくる「物語のセオリー」通りではないかということに気が付きます。
よく昔話や神話のありがりな設定、高貴な身分として生まれながら、何かの事情によって卑しい身分に身を落として苦労を重ね、やがて身分が明かされ偉大な人物として君臨していく、「実は◯◯だった」みたいな物語ですね。身分を落とすことによって、より主人公がパワーアップするという効果があることから、この話型が定番化したのだと言われています。
民俗学者の折口信夫は「貴種流離譚(きしゅりゅうりたん)」と名付けていますが、ギリシア神話や三国志の劉備なんかもそうです。日本で言うと、源氏物語の光源氏やジャングル大帝とか、ガンダムのシャア、ちょっと違うけど水戸黄門が印籠出してくる件もその流れがある感じがします。
もちろん歌舞伎にもあります。高貴な人物が低い身分に「身をやつす」というストーリーは、歌舞伎の定番中の定番、猿翁さんのスーパー歌舞伎でも登場します。
それにしても事実は歌舞伎よりも奇なりですね。実はこの長い長い歌舞伎を、猿翁・中車父子が長年仕組んでいたのではないかと思うくらいによくできています。
この話題性を生かして、香川照之さん改め市川中車さん、今後さらなるパワーアップをして、歌舞伎界に君臨していただきたいものです。