『べらぼう』 ”エンタメの奇跡”で暴動が収束も…新之助の死に苦しむ蔦重を救い出した歌麿【後編】

高野晃彰

今まで、一橋治済(生田斗真)の傀儡として、アジテート(煽動活動)とアサシネート(暗殺活動)に徹し、手際よく仕事をやりとげていた「丈右衛門だった男」(矢野聖人)。

ところが、自分の仕事を蔦重(横浜流星)の「エンタメ」で壊され、陰に徹することも忘れ、大衆の面前で蔦重を「刺す」という犯行に及びました。けれど、あわやという瞬間に新之助(井之脇海)が間に割り込み、かけつけた長谷川平蔵(中村隼人)の矢で射られて死んでしまいます。

【前編】の記事はこちら:

『べらぼう』蔦重による「エンタメの奇跡」に”煽りのプロ”がつい見せてしまった怒りの爆発【前編】

「蔦重を守れて良かった…俺は世を明るくする男を守るために生まれてきた…」大河ドラマ「べらぼう」第33話『打壊演太女功徳(うちこわしえんためのくどく)』で、死にゆく小田新之助(井之脇海)が残した…

蔦重のエンタメ軍団パワーは、市中の暴動を収束できたものの“新之助の死”という悲劇を招くことに。いつもは困難や悲しみをポジティブパワーで乗り切ってきた蔦重ですが、今回ばかりはそうはいかなかったようです。自責の念に苦しみ、魂が抜け死相さえ浮かんでいるように見えた蔦重を、現実に引き上げたのは、やはり、歌丸(染谷将太)しかいませんでした。

「俺は世を明るくする男を守るために生まれてきた」新之助の最期の言葉

匕首で刺されただけなら、新之助の命は助かったはず。けれども匕首には毒が塗られていました。医者に連れてくために、蔦重が肩を貸して歩いていましたが、しだいに歩けなくなっていきます。

以前、駆け落ちが失敗したときに切腹しようと腹に刃を当てるも「痛っ!」となっていた、ちょっと情けない新之助が、なんの躊躇もなく蔦重をかばうために匕首の前に身を投げ出すとは。なんとしても「蔦重を守りたい」の一心の行動でしょう。

「俺は何のために生まれてきたのか分からぬ男だった」と息も絶え絶えに話す新之助。
「貧乏侍の三男に生まれ、大した才能もなく、妻子も守れなかった」と。
けれども「そんな自分が最後にできたこと。蔦重を守れて良かった…俺は世を明るくする男を守るために生まれてきた…」という最後の言葉は、本当に心の底からの言葉でしょう。息を引き取る間際、微笑みが浮かんでいました。

長い友人で、自分を見捨てずに住まいや仕事を世話してくれていたことに恩を感じていたとは思いますが、やはり荒れた世の中だからこそ必要な「世を明るくする男、蔦屋重三郎」という男の命を自分は守れたのだ、そのために生まれてきたのだ……という思いが切なかったですね。新之助には幸せになって欲しかった。

2ページ目 自分のせいで友人を死なせてしまった蔦重の慟哭

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