江戸の路地裏で、何やらかけ声が響きます。
「わいわい天王、騒ぐがお好き。囃せや子供、守(まもり)を取らしょ、そりゃまくまくぞ。ワイワイと囃せ……」
この声が聞こえると、子供たちは長屋を飛び出し、声の主へと駆け寄って行きました。
「わいわい天王だ!」
一体わいわい天王(~てんのう)とは何者なのでしょうか。
牛頭天王のお札をばらまく
わいわい天王の姿を見ると、天狗または猿田彦(サルタヒコ)の面をつけた男が羽織袴姿で両刀を差し、手に持った札をばらまいています。
ばらまかれた札には牛頭天王(ごずてんのう)の名が摺られており、子供たちが面白がって掻き集めていました。
子供たちが騒いでいると、やがて大人たちもやってきて、わいわい天王に小銭を渡します。
何のことはない、このわいわい天王とは、要するに物乞いの大道芸人です(これを芸と呼んでいいのかは判断が分かれるでしょうが……)。
天王祭の時期(旧暦6月ごろ)になると、夏の疫病除けとして牛頭天王のお札を配り(ばらまき)、代わりに寄付を集めたのでした。
牛頭天王のお札と言っても粗末な紅摺(べにずり。単色版画)が多く、これが何の気休めになるのかもわかりません。
それでもまぁ、せっかくわいわい天王が頑張って?いるのだし、バカにして万一罰が当たっても気分が悪いものです。
何より、わいわい天王が子供たちと一緒にわいわい騒いでいるとうるさいので、さっさとどこかへ行ってもらうために小銭を渡しました。
寄付の相場は一軒あたり1~2文(1文≒25~30円)。これじゃ駄菓子が買えるかどうかと言ったところでしょうが、そこは薄利多売で頑張ったのでしょう。
※牛頭天王についてはこちら。
恩も怨みも倍返し!祇園祭の主人公でありながら忘れられた神様「牛頭天王」はとても激しい性格だった
京都を代表する風物詩の一つ・祇園(ぎおん)祭。その主人公として祀られながら、ほとんど顧みられることのない?牛頭天王(ごずてんのう)。[caption id="attachment_134623…
