清少納言と恋人であったといわれる藤原実方
藤原実方(ふじわらのさねかた)は、平安中期の公卿・歌人として知られる人物で、中古三十六歌仙の一人です。藤原定時の子で、侍従、右馬頭、左近中将を経たのち、995(長徳元)年に陸奥守として任国へ赴任したまま998(長徳4)年に亡くなります。
実方はかなりの人数の女性と交際していたとされ、雅でたいへん絵になる貴公子だったとも言われています。「源氏物語」のモデルのひとりであるともいわれているので、美男子だったのでしょうね。
この実方、実は清少納言の恋人であったとされています。根拠は、実方の私家集「実方朝臣集」に清少納言とやりとりしたと思われる和歌が複数見られることから。「実方朝臣集」の巻頭に清少納言との贈答歌が集中していることから、この集は彼女に贈ることを念頭に編纂されたのでは、という説もあります。
「枕草子」ではどう描かれる?
さて、このシリーズでは「枕草子」に登場する貴公子と清少納言のやりとり、ともすれば恋愛関係ともとれるような内容について紹介してきました。では、実際に恋人であったと目される実方は、「枕草子」でどのように描かれているのでしょうか。
実は、これまでに紹介した藤原斉信や藤原行成のように、かなり親しくやりとりをしたようには描かれていないのです。「枕草子」に実方の名は何度か登場するのですが、恋を思わせるような直接的な表現はありません。
たとえば、「宮の五節出ださせたまふに……」の段では、清少納言は実方を「歌よむと知りたる人」と歌人として評価しています。このころの清少納言はまだ出仕し始めて間もないころで、歌をよくよむ方に自分のつたない歌を返すなんて恥ずかしい、とまだ慣れず引っ込み思案な様子がうかがえるころ。
このときはまだ実方とも交際していなかったのでしょうか。「枕草子」に実方の名(官職名)が登場する場面でも、二人が直接言葉を交わすことはありません。