1937年2月、歌人の与謝野晶子は60歳のとき、新潟県村上市にある瀬波温泉(せなみおんせん)に滞在しました。この温泉地での滞在はわずか二日間でしたが、その間に晶子は45首もの短歌を詠みました。
同温泉は、1904年に石油採掘のために試掘を始めた際、翌年に突如として熱湯が噴出したことから始まりました。国産の石油の採掘が盛んだった新潟県では、「油田を掘り当てようとして温泉を掘り当ててしまった」なんていう話は、特段、珍しいことでもなかったようです。
この出来事をきっかけとなり、茶屋や湯宿が設けられ、1900年代末には6軒の旅館が立ち並ぶようになりました。
さらに、1914年には鉄道羽越線が開通し、1920年代から1940年代にかけて多くの観光客が訪れる温泉地として発展していきました。
「大空へ煙の馬を走せしむと 白き噴湯の望まるる山」
「柔らかに湯の櫓をばめぐりたる 浅き泉の灼熱の水」
「温泉はいみじき瀧のいきほいを 天に示して逆しまに飛ぶ」
これらは、温泉滞在中に、晶子が詠んだ歌の一部です。
どうですか? 晶子が詠んだ歌には、瀬波温泉の美しさやその場にいることの喜びが鮮明に表現されているように思えませんか?