医学が未発達であった20世紀以前、現代では治療方法が確立されている病気によって多くの人々が命を落とした。中でも感染症の脅威は別格で、地球規模のパンデミックが起こった例も存在する。
今回は、感染症の中でも主に性行為によって感染を引き起こす「梅毒(ばいどく)」が日本に及ぼした影響についてご紹介する。
梅毒(ばいどく)とは
梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌が体内に侵入することで発症する性感染症の一つ。主に性行為によって感染するが、母子感染も存在する。
現在ではペニシリン系の抗菌剤によって治療が可能だが、免疫を獲得できないことから再感染のリスクがある。近年の日本国内でも年間数千例の感染報告が認められている。
起源と流行の経緯
人類が梅毒を認識したのは15世紀末といわれている。梅毒の起源については諸説あり、明確な発生時期は定かではない。
最も有力なものは、15世紀当時に新大陸を発見したコロンブスらが媒介となって世界中に広がった説である。アメリカの風土病として先住民の体内にあった梅毒菌がコロンブスら旧大陸の人間の体内に侵入し感染。帰国と同時にヨーロッパ諸国に伝染拡大し、世界中に広がったと考えられる。
また、古代から旧大陸に存在したという説もある。コロンブスの新大陸発見以前、旧大陸で埋葬された遺骨に梅毒に類似した病変が認められている。