昭和天皇も口にした「雑草という草はない」
NHKの朝ドラ『らんまん』の主人公のモデルである牧野富太郎のものとされる、「雑草という草はない」という有名な言葉があります。
この言葉は、昭和天皇が言ったことでも有名です。
侍従長を務めた入江相政氏の『宮中侍従物語』によると、1965年9月、那須で静養中だった昭和天皇が、皇居・吹上御所周辺の草が雑草が刈られたと聞き、「雑草ということはない」と言ったのです。
いわく、「どんな植物でも皆名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方で、これを雑草と決め付けてしまうのはいけない。注意するように」と話したとか。
昭和天皇は植物の分類研究をライフワークとしていたため、牧野富太郎からも直接教えを受けたことがありました。おそらくその際に、富太郎からこの考え方を教わったのでしょう。
至極名言ですが、しかし、この有名な「雑草という草はない」という言葉を本当に富太郎が口にしたという証拠は、つい最近まで見つかりませんでした。
山本周五郎の体験談
牧野富太郎という人物の研究でも、この点は最大の問題点のひとつでした。
ところがつい最近になって、大きな傍証になる史料が見つかりました。その手掛かりを残してくれたのは、小説家の山本周五郎です。
1928年頃の話ですが、周五郎は雑誌記者をしており、著名人インタビューの企画で富太郎に会う機会があったのです。
そのインタビューの中で、周五郎が「雑草」という言葉を口にしたところ、富太郎は「世の中に雑草という草はない。どんな草にもちゃんと名前がある」といった趣旨のことを言ったというのです。
これには、周五郎も「ガツンとやられた」気持ちになったとか。
まあ、富太郎は専門家なので、今風に言えば草木や草花について解像度が高かったということですね。