「米を運ぶだけじゃ」
松平元康(演:松本潤)の言葉を聞いて、安堵する瀬名(演:有村架純、築山殿)。最前線で戦うのでなければ一安心……そんな若夫婦のやりとりが演じられていました。
しかし米を運ぶ大高城は織田軍に包囲されており、その突破も込みの任務と知って元康は愕然。今川義元(演:野村萬斎)から贈られた金陀美具足の輝きも「敵を引きつけるための囮にされたのでは?」と勘繰ってしまいそうです。
NHK大河ドラマ「どうする家康」で若き元康が大活躍した大高城への兵粮入れ(輸送作戦)。通常の戦闘に加えて兵粮を無事に届けねばならないため、二重三重に気を遣う難任務と言えます。
実際のところどうだったのか、江戸幕府の公式記録『徳川実紀』をひもといて、大河ドラマとの違いを見ていきましょう。
今川の陣中にて
「……蔵人(くらんど。元康)よ、そなたが肯(うけが)うと申すか」
今川方の軍議において、義元は元康に尋ねました。
「烏滸がましくも、誰かがやらねばならぬなら、進み出るのが奉公人の務めにございます」
織田の軍勢に包囲された大高城では、鵜殿長持(うどの ながもち。長助)が飢えに苦しみながら死守しています。
「者ども、聞いたか。齢十八の蔵人に先を越されて、恥ずかしいとは思わぬのか!」
少しでも自軍の損害を出すまいと、先刻よりずっと肩をすぼめていた今川諸将は更に小さくなるばかり。
「畏れながら、方々は若輩者のそれがしに花をお持たせ下さいましてございます」
押しつけられた、の間違いではないのか?内心苦笑しながら、義元は元康を激励します。