「結構毛だらけ猫灰だらけ」といえば、ご存知、フーテンの寅さんの口上ですが、語呂がいいというだけの意味のない言葉ではありません。
…ご存知と言われても知らないよ?って人は、国民的映画「男はつらいよ」を一度は見てほしい!
寅さんが喋る早口言葉は地口といって、洒落の一種で語呂 (ごろ) 合せのこと。そこに登場する「灰だらけの猫」そのものはかつては冬の風物詩で、「灰猫」と呼ばれていました。
かつて室内の暖房器具は今と違い、電化製品ではなく囲炉裏や火鉢、竈の炭火くらいのものでした。寒がりの猫は、起きている間は炬燵や火の側にいればいいのですが、夜になると火を消した後の温かい竈の灰の中で眠ってしまうことも。
当然、朝になると猫は灰だらけでのっそり這い出して来るというわけです。
これが俳句の季語にもなっている「灰猫」。
そして俳人・富安風生(1885~1979)によって「竈猫(かまどねこ)」という造語が生み出され、師匠の高浜虚子に認められたことで、新しい季語となったのです。
「何もかも 知つてをるなり かまど猫」富安風生
家の中のことは暖かい場所も寒い場所もよく知っている。そして誰もいないと思いきや、竈の中には猫がいて、その家の秘密なら何でも知っているぞ、という二つの意味が含まれている俳句です。