時は室町後期、将軍・足利義政(あしかが よしまさ)の正室として権力を振るい、相次ぐ戦乱に苦しむ民の窮状など知らぬ顔で巨万の富(一説では7万貫≒現代の貨幣価値で約70億円とも)を築き上げた日野富子(ひの とみこ)。
「天下の悪妻」として名を馳せた富子は、鎌倉幕府の尼将軍・北条政子(ほうじょう まさこ)や豊臣家を滅亡に導いた淀殿(よどどの。浅井茶々)と並び、誰が決めたか日本三大悪女に数えられています。
当然ながら周囲の反感を買い、敵も多かった富子ですが、そんなものに挫けるようでは悪女の風上にもおけません。
今回はそんな富子の悪女ぶりを示すエピソードを紹介。ここまでふてぶてしいと、憎悪を通り越して清々しさまで感じてしまうことでしょう。
夫の前で堂々と……不倫の歌を応酬
文明9年(1477年)7月7日、日野富子は夫・足利義政と共に宮中で催された七夕の歌会に出席しました。
夜空の星を愛でながら、優雅に歌を詠み合って……なんてのは単なる建前、実際には季節の行事にかこつけて男女が出逢いを求めたり、あるいは政治工作や同性同士のマウンティング合戦に勤しんだり……とまぁそんな場所です。
とうぜん富子もそんな動機でやって来ており、目的は後土御門天皇(ごつちみかどてんのう。第103代)ただ一人。
「あら、御台所様がいらしたわ」
「また帝のもとへ真っ直ぐと……自分が皇后陛下のつもりかしら」
「いくら公然の関係だからと言っても、少しは遠慮しなさいったら」
「だから野卑な武家の女は……陛下のご趣味にも、困ったものね」
富子は畏れ多くも後土御門天皇と不倫をしていたと言いますが、夫を連れて不倫相手を訪ねるとは、尋常の神経ではありませんね。
このまま富子の好きにはさせない……と言っても陛下の寵愛を受けている今、下手に手出しも出来ない……女房たちは富子へ皮肉の歌を詠みました。
心なき あまも今夜は もしほ草
かきて手向けよ 見合のまま【意訳】せっかく七夕の夜なのだから、ロクデナシのあなたも素敵な歌の一つくらい詠みなさいな。
(海女が海中を掻き分けて藻塩草をとってくるように、心ない天=あまも雲を掻き分けて星を見せてくれればいいのに)
これを聞いた別の女房も加勢します。
人なみに 衣貸すてふ 今日のみや
あまの衣も ほしあひの空【意訳】大した器量でもないあなたが、人並みに衣を貸す(=不倫)は今夜だけなのでしょうか。干した衣を口実に、また来るのではないですか?
……随分と露骨な皮肉ですが、日本国に隠れなき天皇陛下の寵愛を受けている富子は微動だにせず、こう詠み返しました。