これまでのあらすじ
刺客となった悲劇の皇后!日本神話のヒロイン・狭穂姫命と兄の禁断の関係【中】
前回のあらすじ[insert_post id=113025]垂仁天皇(すいにんてんのう。第11代)の皇后・狭穂姫命(さほびめのみこと)は、皇位を狙う実の兄・狭穂彦王(さほびこのみこ)に、垂…
垂仁天皇(すいにんてんのう)の皇后・狭穂姫命(さほびめのみこと)は、人妻の身でありながら実の兄である狭穂彦王(さほびこのみこ)と愛し合っており、結婚後も密会を重ねていました。
ある時、兄から皇位乗っ取りの野心と垂仁天皇の暗殺計画を知らされた狭穂姫命は、刺客として短刀を渡されますが、垂仁天皇の深い愛情を前に断念。
すべてを白状した狭穂姫命は、もうすぐ生まれる兄との子を抱えながら、兄の元へと逃げ込んだのでした……。
炎上する城の中から
「最早そなた達に勝ち目はない……お願いだ……狭穂彦王についても、罪一等を減じて助命を約束しよう!だから愛しの姫君よ……どうか我が元へ戻って来てくれ……!」
兄・狭穂彦王の立て籠もる稲城(※1)を完全包囲した大軍の中から、垂仁天皇が悲痛な叫び声を上げています。これではどっちが攻めているのか分かりません。
しかし、狭穂姫命の返事は変わりません。
「いいえ……わたくしは主上の深き愛情を受ける価値のない不義の身なれば、同じく不義の兄ともども、ここで果てる覚悟にございます……!」
そう言い放つと、いよいよ陣痛が始まったのか、出産のため奥へと引っ込んでしまいました。
「そんな……!」
がっくりと項垂れる垂仁天皇の姿を見下ろして、狭穂彦王は高笑い。
「ははは……たかが女ひとりに、一天万乗(※2)の君もザマぁないな!……さぁ、これで気が済んだ。者ども、城に火を放て!」
最愛なる妹の奪還、そして垂仁天皇の屈伏をもって野心を満たした狭穂彦王は、家臣たちに命じて城に火を放たせます。
「やめろ、やめてくれ……!」
見る間に炎上する城の中から、元気よく赤子の産声が響いてきました。