先日公開した記事「最初から天才なんていない!葛飾北斎の波が完成されていく経過を追ってみました」 に引き続き、今回は北斎の技に注目です。
「この北斎の浮世絵、小さいのにすごい迫力だわ」「よく描かれている題材なのに、なぜか北斎のこの絵に惹かれるんだよね」・・・。各地の北斎展でこんな声が聞かれます。確かに江戸時代には素晴らしい絵師がたくさんいる中で、北斎がなぜこんなに世界から注目を浴びるのか、また私たちはなぜこんなにも北斎に惹かれるのか。今回は北斎の絵に隠された技のほんの一部を、ご紹介します。
自然に遠近感を強調する
北斎は西洋画法を研究しており、当時の日本には珍しく遠近感を論理的に把握していた絵師の一人でした。北斎漫画の中でも、遠近法が説明されています。
この技法をわざとらしさなく自然に、しかし最大活用したい。そう考えた北斎が編み出した技の一つが「絵の中の人と一緒に風景を眺める」という技でした。下の図は富嶽三十六景のひとつ、「五百らかん寺さゞゐどう」です。
「五百らかん寺さゞゐどう」画像出典元:ウィキペディアより
なんと絵の中の人が私たちと一緒に奥の富士山を見ています。私たちの視線はまず手前の人たちを捉え、彼らの視線に導かれるように奥の富士山へと導かれます。北斎はこのように見る人の視線を手前から奥へと誘導することで、自然に遠近感を感じさせることに成功したのです。
「百人一首 うはかゑとき 赤染衛門」画像出典元 ボストン美術館
こちらの絵も同じく人から月へと視線が誘導されます。私たちと一緒に、月を眺める女性たち。遠い月に手を伸ばしたくなるような、美しく少し切ない夜です。